『パリのテロとアラブ人の反応』

2015年11月14日

 

 フランスの首都パリで、大掛かりなテロ事件が起こった。60人以上の死者が出ている模様であり、負傷者の数もそれを超えているようだ。もちろん、今年起こったテロ事件のなかでは、トップ・ニュースであろう。

 しかし、このニュースを見てアラブ人は、どう思うのだろうかと考えてみた。アラブではイラクでもシリアでも、リビアでもイエメンでも、レバノンでも毎日何十人という数の人たちが、テロの犠牲になっている。

 彼らから言わせれば、今回のパリのテロ事件など、そうたいしたニュースでもなかろう、という感覚で捉えられているのではないのか。人間は不幸が続くと、その不幸に無感覚に、なってくるものなのかもしれない。

 確かに、アラブ諸国では、他の社会では信じられないような、悲惨なテロが毎日のように起こっているからだ。パリで起こったテロ事件など、アラブで起こっているテロに比べれば、あまり大事件としては、受け止められまい。

アラブ人の多くは、今回のパリのテロ事件を、半ば喜んでいるかもしれない。『俺たちの毎日の苦しみの、ほんの少しを、パリの人たちも味わってみて、俺たちの苦悩が、少しは分かるようになるだろう。』ということではないのか。

アラブ首脳たちが、フランス政府に向けて送る、哀悼のメッセージは、実は『我々の苦しみも少しは理解して欲しい。』そして『我々の問題解決に、尽力して欲しい。』ということであり、単純な同情や、哀悼でないのだ。

今回のテロが誰によって、起こされたものなのかは、いまだ不明だが、多分『IS(ISIL)による犯行の可能性』か、『アラブ人による犯行説』が出てくるだろう。また『テロはシリア難民が起こした。』とか『シリア難民に紛れ込んでいた、IS(ISIL)のメンバーによるものだった。』という説も、まことしやかに、語られよう。

そうしたことを想定してか、トルコのエルドアン大統領は、西側のジャーナリストとのインタビューで『ヨーロッパに200万人の難民が入ったら、どう対応するのか。』という警告とも恫喝とも取れる、発言をしている。

今回のパリで起こったテロ事件は、ヨーロッパ社会の中に『反アラブ感情』や『反イスラム感情』を煽っていき、民族差別や民族嫌悪の感情を高め、ヨーロッパ人による外国人排斥や、暴力事件が増えていくのではないか。

そうしたゆがんだ民族意識は、やがてヨーロッパ社会のなかに、第二のナチス運動を、生み出していくのではないのか。その萌芽の兆候が、ドイツでもベルギーでも、フランスでもイギリスでも、既に見え始めている。