シリアでIS(ISIL)を相手に、勇敢に戦って一定の成果も挙げている、クルドのミリシアに対し、アメリカ政府は今後、武器弾薬の供与を停止することを、決定した。このことは、場合によってはシリアにおける、IS(ISIL)の戦闘を有利にする、危険性があろう。
アメリカはIS(ISIL)掃討作戦を口にしている中で、何を考えてこのような決定を下したのであろうか。実は、このアメリカの決定の裏には、アメリカとトルコとの、微妙な関係が絡んでいる。
述べるまでもなく、クルド・ミリシアは、トルコにとって潜在的な敵だ。あるいは公然の敵であり、トルコはシリアのクルド・ミリシア(YPG)を、PKKと連携するテロ組織、と認識し公言してきている。
トルコにとって頭が痛い問題は、シリアのクルドが増長し、シリア国内で自治権を持つようになって行けば、そのことはトルコ国内のクルド人に、少なからぬ影響を与え、トルコのクルドも自治権を主張し始めることが、想定されるのだ。
アメリカはトルコがNATOの一員であることから、トルコの安全を支援しなければならない。このために、今回のクルド支援停止を、決定したもようだ。だが、その裏にはもう一枚のカードが、潜んでもいる。
シリアの反アサド派のミリシア・グループが、シリア民主軍(SDF)を結成することになっている。その中には、自由シリア軍(FSA)やYPG(クルド・ミリシア軍)を中心に、反アサド派が結集することになっている。
アメリカ政府はこの新生SDFに、軍事援助をするということであろうから、当然、そのメンバー組織であるクルド・ミリシアの手にも、武器弾薬は渡るということであろう。
既に、アメリカは空輸して投下する形で、10月には50トンの武器弾薬を、SDF側に投下支援しているようだ。シリアの反体制側も、アメリカの支援を受けながら、それなりの成果を上げており、IS(ISIL)側の支配地域255平方キロを、奪還したと伝えられている。
そのいずれの情報も、戦争時におけるプロパガンダを、含んでいるであろうから、そのまま真に受けるわけにはいかないが、動きが活発になってきていることは、事実であろう。
トルコ政府としては、アメリカの二枚舌対応に腹は立っても、どうすることもできまい。アメリカは一応、トルコのメンツを、立ててくれているのだから。アメリカはあくまでも、将来的にはシリアのクルドを自治権から、独立に導いていきたいのであろう。それはエネルギールートの確保につながるからだ。