エルドアン大統領は、悪運の強い男なのかもしれない。彼は重病に罹っているという情報が、だいぶ前に流れたが、その後も元気でいる。それどころか、彼は権力を拡大し、他の閣僚を圧倒し、政敵はすべて排除できてきているのだ。
ここにきて、もう一つエルドアン大統領にとって、特別の武器が手に入ったようだ。その武器はEUに対抗するためのものだ。そのエルドアン大統領が新たに手にした武器は、使い方によっては万能の武器のようだ。まるで孫悟空の、如意棒のようなものなのだ。
これまでトルコは、シリアから流れ出してきた難民を、国内に抱えて苦労してきたが、いまになってこの難民は、トルコに大きなメリットを与えつつある。トルコがEU諸国に、難民を送り出し始めた途端、EU諸国はその対応に苦しみ始めたのだ。
なかでも難民が行きたがるドイツは、70万人を超える難民を受け入れたために、その対応に莫大な予算と、社会不安を抱え込むことになった。それは他のEU諸国にとっても、程度の差はあるものの、同じであろう。
このためEUは、難民を何とかトルコに、引き取ってほしい、留め置いてほしいと言い出した。エルドアン大統領はそのEUの意向に対し、応分の見返りを要求し始めたのだ。その見返りとは、トルコ人のビザなしEU渡航、難民対策費援助、加えて、トルコのEU加盟だ。
これらの項目はだいぶ前から進展を見ないでいた。EUが最初に応えたのは、難民対策費の支払いだったが、最近になって、トルコ人のEUへのビザ無し渡航を認めることや、トルコのEU加盟が現実味を帯びてきている。
もし、EUが最終的に難民問題から逃げるために、トルコに難民を押し付けることができれば、巨額の支援金がEUからトルコに対して、支払われることになる。それは何百億ユーロにも上ろう。
トルコのEU加盟についても、相当前向きな対応が出てきているので、トルコはEUに対して、難民問題をちらつかせることにより、巨額の政治的・経済的利益を受けるということになる。
EUにしてみれば、難民問題を武器に、トルコのエルドアン大統領が強気の交渉をしてくることに、相当腹が立っているだろうが、当面は他に、対応策がないのだ。加えて露土関係がどうなるのかも、EUにとっては頭の痛い問題であろう。
トルコはいま一石二鳥ならぬ、一石三鳥を手にしたということだ。だが好事魔多しという言葉もアジアにはあることを、忘れないほうがいいだろう。