『ロシア軍の空爆で計算が狂った英米とトルコ』

2015年10月 4日

 

 数日前から、ロシア軍がシリアの反体制派に、空爆を開始した。その第一のターゲットは、述べるまでもなく、ISISIL)ということになるのだが、ロシアはそれだけでは満足しない。ロシアがシリアに軍事進出したのは、あくまでもアサド体制を守るためであり、シリアにあるロシアの軍事基地を、維持していくためだ。

 イギリスは早速、ロシアの空爆は5パーセントしか成功していない、と非難しているが、それは嘘だろう。イギリスにとっては、シリアでのロシアの空爆が、成功していることは、不都合極まりないのだ。

 そもそも、現在のシリアの問題が発生したのは、アメリカとイギリスが手を組んで、アサド体制を打倒しよう、と思ったからだ。アラブ諸国のなかにあって、シリアのアサド体制は、相変わらず反イスラエルを、強く主張していた、いわばアラブ最後の、反イスラエルの砦だったのだ。

 アメリカとイギリスがシリア問題を創り出し、多くの犠牲者とインフラの破壊、そして遂には大量の難民が発生した。

 このなかで、トルコは反シリアに回り、自国が抱えるクルド問題を処理しようと考えていた。そのため、トルコはクルドと敵対するIS(ISIL)を擁護し、武器を与え、戦闘員の自国通過も認めてきていた。

 しかし、今回のロシアの軍事進出は、アメリカやイギリス、そしてトルコに大きな計算違いを、起こさせているようだ。IS(ISIL)攻撃を前面に出されたのでは、アメリカもロシアの軍事進出に、反対できなかった。

 しかし、ロシアはIS(ISIL)ばかりではなく、反アサドの自由シリア軍も、攻撃の対象にした。それはロシアとすれば、当然の行動であろう。結果的に、これまでトルコが丸抱えで支援してきた、自由シリア軍は壊滅状態になっていくのではないか。

 ロシアのシリアでの軍事攻撃では、ロシアとアメリカの間で、相当つめた交渉が行われていたはずだし、アメリカはシリア国内の情報を、ロシア側に相当量手渡しているだろう。そう考えれば、ロシアの持つ情報と、アメリカの提供する情報で、ロシア軍は極めて正確な攻撃をしている、ということではないか。

 ロシアはIS(ISIL)が地下に建設した施設や、戦闘員の訓練所だけではなく、IS(IOSIL)の本部も空爆した、と発表している。その攻撃は大きな成果を、挙げているものと思われる。

 アメリカはロシア軍の攻撃を、非難してはいるが、あまり痛痒を感じていないのではないか。それは、IS(ISIL)のシリア・イラクにおける役割が、既に終わっているからだ。IS(ISIL)の70パーセントが、既にアフガニスタンに移動した、という情報もあるのだ。

 困るのはトルコであろう。IS(ISIL)の残存戦闘員が、帰国のルートとしてトルコを、通過するだけではなく、トルコ国内に留まることも考えられよう。そうなれば、トルコ国内情勢は、極めて危険な状態に、なっていくということだ。

 同時に、こうしてタガが緩み始めると、トルコ政府がいままで行ってきた、IS(ISIL)への支援の内容が、次第にばらされるのではないか。トルコが支援した反シリアの政治組織は、トルコ政府による厚遇で、完全に戦闘意欲を失っていようし、自由シリア軍の戦闘員も然りであろう。

 だからこそ、エルドアン大統領はプーチン大統領に対し、何とかシリアに対する攻撃をやめてくれ、と懇願しているのだ。彼は『ロシアの攻撃の犠牲が、一般市民であり、IS(ISIL)ではない。』と言うが、トルコが殺害したクルド人はどれほどなのか、アメリカが殺害したイラク人の数は、どれほどなのかと考えるとき、犠牲者の数は国際政治では、あまり大きな意味を、持たないのではないのか。

 アラブ左派系のアッサーフィール紙は、『トルコが一番損をした』というタイトルの記事を掲載したが、まさにその通りであろう。シリア問題ではアメリカやイギリスは損が無く、他のヨーロッパ諸国が損をし、今後も負担が続こう。しかも難民はコレラにかかってもいるのだから、話はますます厄介になろう。