IS(ISIL)が中東に登場して以来、中東各国はもとより、欧米各国もこの動きに深く関与し、影響を受けている。最近では、ヨーロッパもアメリカも、IS(ISIL)のブーメラン現象が起こることを、真剣に警戒し始めている。
トルコの学者たちが集まって、IS(ISIL)は一体どのような変化を、中東地域諸国にもたらしているのか、ということを纏めた本を出版した。その本のタイトルは『サブ国家としてのセクト民族各組織』とでも訳せばいいのだろうか。
この本は、何人もの大学の地域研究者が、集まって出したものだけに、内容は相当吟味されているものと思われる。その筆頭格は、トルグト・オザル大学のアクプナル先生や、エルカン準教授、ヌルテン・アルトデール準教授などだ。
この本では。IS(ISIL)が中東地域に登場したために。多くの国々は利益を得ている。と主張している。例えば、シリアのアサド体制は、西側諸国にとって、もはや敵ではなくなったというのだ。
また、イラクとシリアの関係が、改善したとも述べている。そして、そのことに加え、イランに対する西側の印象は改善され、制裁も取り除かれたとしている。確かに核問題をめぐっては、実質的に解決した状態になっている。
イラクのクルドは完全に自治権を有するに到り、PKKやPYDもテロリストとは、みなされなくなってきている。そればかりか、クルドは最終的には、国家を設立するに通じる道を、歩み始めてみるのだ。
彼らが主張するのは、結果的にIS(ISIL)問題で損をしたのは、トルコだけだというのだ。トルコはNATOやアメリカからの、再三の要求があったにもかかわらず、IS(ISIL)に対する攻撃を始めなかった。そして、遂に攻撃を始めたときには、既に時間が経過し過ぎており、トルコの払う犠牲に対する評価は、生まれなくなっている。
そもそも、そのIS(ISIL)はトルコの支援を受けることによって、ここまで大きな組織になってしまったのだ。トルコの支援なしには、これだけの軍事作戦を遂行することも、戦闘員を補充することも、出来なかったのだ。それが今では、トルコに対して、弓を引くようになっている。
この本の中では、アメリカが中東諸国にもたらした、破壊についても触れている。中東各国は国家が破壊され、セクト、種族、民族、宗派などが、バラバラになり、それらが自分たちの権利と、安全を守るために、個々に行動するようになり、イラクは12年以上前に起こった戦争以来、未だに国家に戻っていないし、シリアはいまその最前線にいる。
しかし、この先生たちは、結局のところIS(ISIL)は長く留まることが、出来ないだろう、という結論を出している。