カダフィ大佐の次男で、理知的な人物として、カダフィ時代に内外で知られていた、サイフ・ル・イスラーム・カダフィに対して、トリポリ裁判所は死刑判決を、欠席裁判で下した。
彼は場合によっては、混沌を続けているリビアを、再度纏め上げる可能性を、持った人物ではないか、と私は思ってきた。彼はカダフィ大佐健在の頃に、カダフィ大佐の政治、経済政策の進め方に、問題があるとして、何度もカダフィ大佐に、意見をしてきた人物だった。
そのたびに、彼はカダフィ大佐に対して、もし政治方針を変更しなければ、全ての政府の仕事から手を引く、とまで言っていた人物だ。そのサイフ・ル・イスラームに対して、カダフィ大佐は何度となく、妥協したといわれていた。
しかし、それだけの理性派である、サイフ・ル・イスラームであっても、自分の父である、カダフィ大佐に対して起こった革命では、断固として父親を守る側に回った。その結果が、革命派の人々を多数死に追いやった、ということで死刑判決が、下ったということだ。
彼は逃亡先からリビアに送還され、リビア南西部のズインタンで軟禁状態に置かれているが、ズインタンの部族はサイフ・ル・イスラームを、トリポリ政府の裁判所には、再三の要求があったにも関わらず、引き渡さなかった。それはトリポリでの裁判が、公正に行われない懸念がある、という理由だった。
国際犯罪裁判所(ICC)も、サイフ・ル・イスラームの引渡を、ズインタンの部族側に要求したが、断られている。
何故ズインタンの部族は、サイフ・ル・イスラームをトリポリの裁判所にも、国際犯罪裁判所にも、引き渡さないのかというと、サイフ・ル・イスラームが持つ、政治的価値を考えてのことだろう、と推測されている。
トリポリ政府は『リビアの夜明け』組織の管轄下にあり、イスラム色が強い政府だが、トブルクに拠点を置く、もうひとつの国際的に認知された政府は、ズインタンの部族と関係が深い。
国際犯罪裁判所はサイフ・ル・イスラームの引渡と、その後の裁判を希望しているが、国際人権組織はサイフ・ル・イスラームの、擁護に回っている。ズインタンの部族は、彼の引渡をしないだろうし、トブルクの正統政府がそれを、歓迎している状態では、死刑判決は下されたものの、サイフ・ル・イスラームが死刑になることは、当分ありそうにない。