中東各国では、いまあちこちで自国の安全を図るために、テロリストの侵入を抑えるための、防御壁が建設されている。それは、あたかもブームのような感じになっている。
そもそも、中東での防御壁建設は、イスラエルによってパレスチナのヨルダン川西岸地区に、建設されたのが始まりなのだが、その防御壁の建設によって、イスラエルはパレスチナからの軍事攻撃を、受けないでいるというのだろうか。
いまのところ、ヨルダン川西岸地区からの、パレスチナ人によるイスラエル側への攻撃は、極めて少ない状態にあるが、それは防御壁の効果ではない。あくまでも、イスラエル政府がパレスチナ自治政府を、安全のための、協力者に仕立て上げることに成功した、結果であろう。
最近もガザから移動した、あるいはヨルダン川西岸で生まれた、ハマースのメンバーによるテロを警戒し、パレスチナ自治政府は200人以上のハマース・メンバーを、逮捕している。彼らに対するパレスチナ自治政府の、刑務所での拷問は、イスラエルでのものよりも、過酷であろう。つまり、パレスチナ自治政府は完全に、イスラエルの治安を担当する、下部機関に成り下がっている、ということだ。
チュニジアも最近起こった、スーサでのテロ以後、リビアからテロリストが侵入しているとして、防御壁を建設することを決めた。しかし、テロリストは防御壁など作っても、簡単にリビアからチュニジアに、入ることが出来よう。
シリアとヨルダンとの国境、イラクとヨルダンとの国境でも、似たような防御壁の建設が、検討されているが、これも同じであろう、長大な国境線の何処に、防御壁を作るというのか。そんなことをしても、迂回するルートはすぐ出来るだろうし、防御壁を破壊することも容易であろう。
トルコとシリアの国境地域にも、防御壁の建設が話題になったし、サウジアラビアとイラクとの国境でも、既に防御壁が一部で出来ている。しかし、その防御壁でサウジアラビアが、安全になったとは思えない。言ってみれば、防御壁は成田さんの、お札のような効果しか、ないのではないのか。
防御壁の効果を高めるためと言って、その次は国境地帯への、地雷の敷設が検討されよう。それは将来にわたって、悲劇を生み出すことになるのだ。私がリビアに留学していた、1970年代の初頭ですら、第二次世界大戦時の地雷や不発弾によって、犠牲になる人たちが、出ていたのだから。
将来平和になって、地雷を撤去しようと思っても、それは至難の業であろう。本当の安全のための防御壁は、話し合いの結果しか、生まれないのだ。