『トルコ版の万里の長城』

2015年6月28日

 

 トルコがシリアとの国境地帯に、全長90キロの塀を、建設することを決めた。これは高さ35メートルで、数箇所には監視カメラも、設置されることになっている。これは述べるまでも無く、シリア側からIS(ISIL)が侵入してくることに、備えるものであろうが、同時に、将来の北シリアのクルドの動きに、対応するものでもあろう。

 この国境の壁のトルコ側には、とげの付いた針金の塀も、設けるというのだから、相当本格的な計画なのであろう。しかし、トルコのAKP(与党)政府には、シリア側からの敵の侵入もさることながら、国内にも多数の敵がいるのではないのか。

 トルコ政府はシリア領内10キロの範囲を、自国の安全地帯にする考えだが、それは4050キロの範囲に及ぶようだ。そのことを実施するためには、12000人程度の軍を投入しなければならない、というのが専門家の考えだ。

 しかし、トルコ軍はこうした政府の考えに、ネガティブな反応を示しており、国境地域への軍の配備を拒否している。あまりにも、リスクが高いからだ。これはシリア軍との衝突と、IS(ISIL)との武力衝突を想定しなければ、ならないからだ。

 いずれにしろ、トルコの南東部はハタイの町は、やがてはFSA(自由シリア軍)、あるいはクルド組織PYDの、支配下に置かれるだろう、と専門家は予測している。それだけこの地域では、クルド人やシリア人の動きが、活発だということであろう。

 トルコがシリア国境に向けて、軍を送りたいのには他にも理由がある。アメリカやロシア、イランに対する対応上、それが必要なのだ。それ無しには トルコのこれらの国との外交関係は、悪化する危険性があるのだ。しかし、トルコはシリアに侵攻することにより、クルドのPYDIS(ISIL) 、シリア軍と戦うことを、覚悟しなければなるまい。

 シリア国内に安全地帯を、トルコが確保するとすれば、国際法上は当然シリア政府と、話し合わなければならないのだが、現在のシリア・トルコ関係では、それは不可能であり、一方的なトルコ側の動きとなろう。トルコ軍はそのことについても、不満を述べている。

 万里の長城は中国を救わなかったのではないのか。いまトルコがやるべきことは、国内の意思統一が優先であろう。一説には、エルドアン大統領は国内問題を糊塗するために、シリアに進軍したいというのだ。国民や軍がそう考えるようでは、トルコは外的よりも、内部から崩壊することになろう。