サウジアラビアの首都リヤドに近いデイリヤは、サウジアラビア王国建国の一方の旗頭である、ワハビー派集団の発祥の地だ。
そのデイリヤがいま、観光地にされようとしている。この新しいサウジアラビア王国の方針が、果たして吉と出るのか凶と出るのか見ものだ。
常識的に考えれば、ワハビー派の発祥の地が、観光地として開発されていくということは、ワハビー派の人たちにとっては、嘆かわしいことであろう。その場所には、近くレストランや土産店、ホテル、ゲーム・パークなどができるのであろう。
このことを、ワハビー派の人たちは、どう受け止めるであろうか。サウジアラビアの王家とワハビー派の幹部との間では、何らかの合意が成立したから、デイリヤを観光地にすることが決まったのだろうが、そう簡単にはいかないのではないか。
それどころか、今回のデイリヤ観光地化開発計画は、サウド王家を揺るがすことになるかもしれない。そもそも、サウド家がワハビー派と提携し、アラビア半島を支配して出来上がったのが、サウジアラビア王国だ。
したがって、ワハビー派はサウジアラビア国内で、一定の好条件を与えられてきたし、宗教的権限も任されてきていたのだ。だが、最近では次第にサウド家の力がまし、ワハビー派集団の立場は、弱くなってきている。
ワハビー派は厳格な戒律を守ることを、旨としてきていたが、そのためにイスラム世界の多くの原理主義は、ワハビー派の教えを受けるものが少なくない。パキスタンのハンバリー派も、厳格なことで知られているが、この派もワハビー派に近いし、リビアでイドリス国王ファミリーが広めたサヌーシー派も、ワハビー派の教えを受けたものだ。
ビン・ラーデンが創設したあるカーイダも、元をただせばワハビー派の教えを受けているし、一部ではIS(ISIL)もワハビー派の教えに、沿っているといわれている。
こうなると、サウジアラビアを打倒しようとするIS(ISIL)と、ワハビー派のなかでも過激なグループが、連携してサウジアラビアの王政打倒に、動き出すかもしれない。すでにIS(ISIL)による、サウジアラビア国内でのテロが始まっており、いまのところはシーア派を追放する、と言っているが、それはワハビー派との連携を、前提とした発言ではないのか。ワハビー派はシーア派を、イスラム教徒とは認めていないのだ。
IS(ISIL)がスンニー派のなかのワハビー派と連携しても、そのことがサウジアラビアの王家を、受け入れるということではあるまい。堕落したサウジアラビア王家のプリンスたちの話は、折々伝わってくるが、そのことはIS(ISIL)にとって、格好の攻撃材料ではないのか。
サウジアラビアはいま、イエメン戦争を始め、イランとは緊張状態にあり、イラクのシーア派政府との関係も緊張しており、加えて国内の王国の土台であるワハビー派を、敵に回すというのだろうか。それは西欧かぶれと金儲けがもたらした、災難の種ではないのか。