だいぶ前から、IS(ISIL)はサウジアラビアをターゲットにしている、と宣言してきている。世界で一番大きな産油国を手中に収めれば、あるいは彼らの唱える、イスラム国家の樹立も夢ではあるまい。
既に、IS(ISIL)はサウジアラビアでの破壊工作を始めており、2014年11月には銃撃テロがあり、先月は2度もシーア派のモスクが爆弾テロに会い、多数の犠牲者を出している。こうなると、サウジアラビア政府も本腰を、入れないわけにはいかなくなった。
サウジアラビア政府が新たな対応をとった最初のものは、爆弾テロによる犠牲者や現場の様子を、テレビで公開しテロがいかに残酷で野蛮なものなのかを、国民に知らせることだった。人の身体がバラバラになり、床が血で染まっている光景は、サウジアラビア国民に、相当なショックを与えたことであろう。
この犠牲現場の光景を公開するという方法は、あるいはIS(ISIL)が手掛けてきた、斬首などによる、ショック作戦の効果を、半減するかもしれない。そして、サウジアラビア国民のIS(ISIL)に対する憎しみを、あおる効果があるかもしれない。
IS(ISIL)側はサウジアラビアの、マイノリテイであるシーア派国民と、マジョリテイのスンニー派国民との間の亀裂を大きくし、スンニー派対シーア派国民の武力衝突を生み出したい、と考えているのではないか。
そうなれば、スンニー派側につくことによって、サウジアラビア国民の間から、新たなIS(ISIL)メンバーを集めることが、出来るかもしれない。IS(ISIL)はサウジアラビアがワハビー派の国家であり、IS(ISIL)の思想と近いことから、容易にメンバーを集められる、と思っているのかもしれない。
しかし、そう物事は簡単ではないかもしれない。無差別に斬首するIS)ISIL)の残虐な手法は、サウジアラビアで斬首刑がまかり通っているとはいえ、内容が全く違うこと(犯罪者の処刑)から、支持を集めることはできまい。
そして、シリアやイラクの場合とは異なり、サウジアラビアのスンニー派とシーア派の構成割合は、シーア派に甘い点数をつけてもスンニー派が8割、シーア派が2割(実際のシーア派国民の割合は1割から1割5分程度といわれている)ではないのか。
そうした社会のなかでは、IS(ISIL)がスンニー派を支援するといっても、受け入れられないのではないのか。加えて、サウジアラビアの国民は、ワハビー派の我々こそが、正統なイスラムだと思っていようから、IS(ISIL)のリ-ダーであるアブーバクル・バグダーデイが唱えるカリフ制と聞いても、感動することはあるまい。
IS(ISIL)側にとって唯一の優位な点は、最新の機器を使う戦法だ、インターネットやユーチューブ、ツイッターを使った宣伝戦、政府の治安機関などに対するハッキング、新型兵器や武器の使用、それを、外人戦闘員を使ってやるということであろう。
ただ、サウジアラビアが世界経済に与える影響が、大きな国であることから、シリアやイラクとは異なり、欧米が本格的に支援に乗り出す可能性が、高いことも忘れてはなるまい。かつては、アルカーイダもサウジアラビアを、支配しようとしていたそうだが、それは失敗に終わっている。IS(ISIL)のアルカーイダに勝る知恵が、あるのだろうか。