エジプトのモルシー前大統領に対して、裁判所は死刑判決を下した。刑務所破壊と大量の脱獄者を出した責任、ということのようだが、この死刑判決は今後、シーシ大統領にとって極めて危険な、賭けだったといえるのではないか。
モルシーだけではなく、ムスリム同胞団トップのムハンマド・バデーウや、ベルターギー、シャーテル、カルダーウイといった幹部にも、揃って死刑判決が下っており、それ以外にも、100人を超えるムスリム同胞団メンバーが、終身刑や死刑判決を受けている。
当然ことながら、エジプト以外のムスリム同胞団組織は、これに反発しているが、ガザのハマースなどはハマース・メンバーも脱獄し、欠席裁判で判決が下っていることから、今回の判決に噛みついている。
人権団体もやはり今回の判決に、異議を唱えているが、死刑は即座に実行される、というわけではない。エジプトのイスラム教最高権威である、ムフテイなどの判断が降りた後に、最終的な対応が決まるシステムになっている。
シーシ大統領が今回思い切って、死刑判決を下すように裁判官に指示したのであろうが、どのような考えがあってであろうか。多分にナセル大統領の時代に、ナセル大統領がムスリム同胞団に対して取った、強攻策を真似たのではないかと思われる。
ナセル大統領はムスリム同胞団の学者である、著名なサイド・コトブを死刑に処している。それに合わせ、大量のムスリム同胞団員が投獄され、拷問を受けている。このため、ムスリム同胞団の活動は低下し、メンバーの多くが地下にもぐっている。
今回の強硬策が、エジプト国民に受け入れられるのか、あるいは反発を受け、大衆デモが起こったりするのかの、判断材料のひとつは、エジプトの経済状態が今後、どうなるのかということに、かかっているのではないか。
シーシ大統領はここ2~3年で、エジプトの経済は改善する、と言っているが、それは外国からの援助と、投資にかかっていよう。彼が期待する、アラブ湾岸諸国からの援助や投資は、表面的には派手だが、実施されるか否かは別だ。
つい最近、サウジアラビアから伝わってきた情報によれば、シーシ大統領を高く評価していたのはムクリン王子だが、彼の影響力が低下したことで、エジプトへの援助は低下するのではないか、ということのようだ。
エジプトでは失業、インフレなど、一般的な経済問題が、拡大していることは事実であり、エジプト庶民の笑顔の裏には、大きな怒りのマグマがあることも、忘れてはなるまい。