アメリカはイラクを3分割するだろう、という予測が一部の中東専門家の間では、しばらく前から話題になっていた。私もそうではないかと思ってきていたが、最近のイラクをめぐる動きで、その予測がまんざら嘘ではなくなり、始めているような気がする。
イラク政府にとって頭の痛い問題は、イラクの主要民族宗派に対して、何処まで武器を供与するか、という問題だった。例えばクルド人に関しては、既に半分自治体制が出来上がっており、イラク北部はクルド自治政府が、統治しているし、この自治政府はペシュメルガと呼ばれる、軍隊も持っている。
ペシュメルガはシリアのコバネで、クルド人がIS(ISIL)の攻撃を受けたときに、派兵されシリアのクルド人を支援して戦い、遂にはIS(ISIL)を打倒しているのだ。つまり、ペシュメルガ軍は既に、本格的な軍隊のレベルに、達しているということだ。
イラクのスンニー派については、イラク政府がシーア派中心であり、スンニー派を強化することは危険だ、と今まで思われてきており、スンニー派のミリシアに対する武器の供与は、控えられてきていた。
しかし、猛威を振るうIS(ISIL)を打倒するためには、イラクの正規軍だけでは足りず、スンニー派のミリシアも作戦に参加するように仕向け、武器も供与した。結果的には、アンバルでの戦闘でイラク軍は、IS(ISIL)を追い詰めることに成功している。
しかも、その後、アバデイ首相はスンニー派に対し、より一層イラク軍と協力するような体制を作っていく、武器の供与もすると語っている。このことはスンニー派に対しても、クルド人同様にある種の主権を持たせる、という意味合いが含まれていると思われる。
クルド自治政府のバルザーニ大統領がアメリカを訪問し、穏やかな表現ではあるが、自治から独立に移行したい旨を伝えた。もちろん、アメリカ政府は即答を避けているが、何らかの調整をした後では、クルド人の独立を認めるかもしれない。
そうなると、イラクは実質的に3分割され、それを連邦制のような形で、一体化していくかもしれない。今回のIS(ISIL)の武力による拡大を経験した、イラクのクルド、スンニー、シーアの各派は、必要に応じて協力する体制が、最も好ましいと考えていよう。
各派がそれぞれに認められた地域で、自主権を発揮して統治していく方式に加え、石油収入をどう配分するかということが、3派間の最後の難問ではないのか。この問題を国際的な関与で、何とか解決に漕ぎ着けて欲しいものだ。