シリアの首都ダマスカス市の郊外に、パレスチナ難民の居住するヤルムーク・キャンプがある。ここには50万人のパレスチナ人難民が居住している。シリアの内戦ではシリア人22万人が犠牲になり、何百万人もが逃れ国外に脱出している。
しかし、パレスチナ人難民には逃れていく先がない。受け入れ諸国側にしてみれば、シリア人難民の場合はやがては帰国するが、パレスチナ人難民を受け入れれば、永久にそこに住み着かれてしまう、という判断があるからであろう。
このヤルムーク・キャンプが、首都ダマスカス市にほど近いということもあり、ヤルムーク・キャンプの支配が、ダマスカス攻防戦にとって、重要な意味を持っていた。
このためヌスラ組織が台頭し、ヤルムーク・キャンプをめぐる戦闘が長期にわたっていた。それに対抗するのは小規模なパレスチナ人難民のミリシアと、シリア人の反シリア政府側ミリシアだった。
その後、IS(ISL)がヤルムーク・キャンプ攻防戦に加わり、現在では同地区の90パーセントが、彼らの支配下に落ちたということだ。ヤルムーク・キャンプ内では水不足、食糧不足の状態が続いており、住民は栄養失調や病気で苦しんでいる。
国連の難民機関も、この状態を放置することは、国際的な恥だと語っているが、シリア政府には食糧や医療支援を、ヤルムーク・キャンプに送リ届けることが出来ない状態にある。いまではヌスラ組織と結託する、IS(ISIL)の抵抗が強過ぎるからだ。
もしこうした状態のなかで、IS(ISIL)がパレスチナ人難民に対し、食糧や医療援助を行えるようになれば、パレスチナ人のIS(ISIL)に対する対応には、変化が生まれよう。
そうなれば、パレスチナ人難民の中からも、IS(ISIL)に参加する者が出てくるかもしれない。いまの状態でも複雑化し、解決が困難ななかで、パレスチナ人までがIS(ISIL)に加わるようなことになれば、そのことがヨルダン川西岸のパレスチナ人や、ガザのパレスチナ人に影響を与え、事態はますます複雑化、過激化していくことが懸念される。
一日も早いIS(ISIL)に対する、有効な対応策を考え出すべきだ。それが出来なければ、シリアやイラクに限らず、この地域の他の国々にも、深刻な影響を及ぼすことになろう。