ダウトール首相が決定して進めた、シリア領内にあるトルコの飛び地、スレイマン・シャー廟の警護に当たっている、トルコ軍兵士救出作戦は、いまトルコ国内で厳しい非難を受けている。
このスレインマン・シャー廟がIS(ISIL)によって包囲されて以来、警護に当たっているトルコ軍兵士の,定期交代がままならず,長期に渡って残留していた。加えて、彼らへの食料の供給にも事欠いていた。
今回ダウトール首相が、このトルコ軍兵士救出作戦にゴー・サインを出したことは、極めて人道的な判断だったと思われる。しかも、作戦はスムーズに進められ、事故で1名のトルコ兵が犠牲になっただけで済んだ。一見大成功と思えるのだが、何故いまトルコ国内では、非難されているのであろうか。
それはトルコの領土問題に、直結しているからであろう。
今回はスレイマン・シャー廟の移転が決まり、今まであったところから、大分北に移動した場所に、新たに設置されることとなった。そのことは、これまでのスレイマン・シャー廟から、数十キロも後退しているわけであり、将来、トルコが領土の主張をする段階になると、シリアとの間で不利な状況に置かれる可能性が、出てくるということではないか。
そうでなくとも、トルコ国民の間にはシリアの北部は、もともとトルコの領土であったものが、第一次世界大戦における敗北で、無理やりシリア側の領土に組み込まれた、という意識が強いのだ。
ダウトール首相は今回のスレイマン・シャー廟の、北の隣接地への移転は、あくまでも臨時の措置だと言っているが、そうであろうか。そこがスレイマン・シャー廟のある場所と見なされれば、なかなか元あった場所まで、国境を南に移動することは困難となろう。
述べるまでもなく、領土を巡る問題は洋の東西を問わず極めて困難であり、奪われた領土を取り戻すには、軍事力の行使が必要なのは普通だ。トルコはこの先、シリアが疲弊した段階で、それを実行しようと思っているのであろうか。あるいは、今後のシリア問題処理の段階で、連合側に領土の主張をして受け入れてもらおう、という計算からであろうか。