かつてデアスポラという言葉が、マスコミの上で踊った時期があった。ユダヤ人の悲惨な人生に同情を寄せる者、偽善者ぶりを発揮する者など、その理由はいろいろであったろう。
最近では、ユダヤ人の持つ国際的なネットワークと、彼らが持つ金の力が、世界中でユダヤ人を特別視する傾向を、生んでいるようだ。それもある部分では確かであろう。
ユダヤ人だからと言って、皆が大金持ちであるとか、国際的な陰謀を画策している、ということはありえまい。ほとんどのユダヤ人は、他の人種とあまり変わらない。
しかし、人は他者を何時も色眼鏡で見たい、という感情があるのであろうか。ユダヤ人は世界中でマイノリテイであるために、社会的混乱や経済的困窮の時期には、人身御供にされてきている。
いまユダヤ人はすごい、という評価が世界中で広がり、そこから来る反ユダヤ感情が、ユダヤ人たちをそれまで住んでいたところに住みにくい状態を、作り出しているようだ。
デンマークのユダヤ人たちは、最近になってデンマーク社会が、ユダヤ人を歓迎していないということを、ひしひしと感じているのであろうか。『我々にここから出て行けと言いたいのか。我々はイスラエルに移住しなければならないのか』という不安を抱かせている。
イエメンでも事情は異なるが、似通った状態が起こっている。最近イエメン国内で優勢になったホウシ派が、ユダヤ人に対していい感情を持っていないためだ。『アメリカに死を、イスラエルに死を、ユダヤ人に呪いを、イスラムに勝利を』というスローガンをホウシ派は掲げているというのだ。
このため、身の危険を感じたイエメンのユダヤ人たちは、同国を去りイスラエルに移住することを決めたようだ。イエメンにはかつて4万人のユダヤ人が居住しており、それなりのコミュニテイも出来ていたのだが、今は全くその面影もないということだ。
シャルリー・エブド事件の後、フランス在住のユダヤ人の間でも、イスラエルへの移住の話が持ちきりになっていた。フランスに住む85パーセントのユダヤ人は、フランスから離れたい、と考えているということのようだ。
そうなれば、どうしてもパレスチナ人の居住区である、ヨルダン川西岸地区に入植地を増やさなければ、フランスなどから来る在外ユダヤ人を受け入れることが出来ない。
そのことは、述べるまでもなく、イスラエルとパレスチナとの対立を激化させ、世界のマスコミはイスラエルを、非難することになろう。それが世界各地で再度ユダヤ人に対する敵対行動が始まるきっかけになろう。考えてみればこれほど不幸なことはあるまい。