あまり日本人には染みが無いことから、イエメン情勢については、ほとんど報告しないできた。しかし、現状はまさに政府軍側が勝つのか、ホウシ派側が勝つのかという、天王山に辿り着いているということのようだ。
そこでラフな解説をしてみることにした。そもそも、イエメンの国際政治における、重要性は何かといえば、スエズ運河を経由して黄海に出た船舶が、イエメンのバーブルマンデブ海峡を通って、アジアやペルシャ湾に向かい、その逆もあるということだ。
したがって、バーブルマンデブ海峡は世界の通商や防衛にとって、きわめて重要な意味を持っている。この海域ではソマリアなどの海賊が、貨物船を襲ってもいる。もしバーブルマンデブ海峡が一定の国によって支配され、封鎖されるようなことになれば、世界中の国が相当のダメージを受けるということだ。
それだけ重要性を持つバーブルマンデブ海峡のあるイエメンは、もう一つ重要性を持つ国でもある。それは世界最大の石油産出国の、南東に隣接しているということだ。もしイエメンの体制がサウジアラビアンに敵対的になった場合は、サウジアラビア国内の反政府側に武器を供与したり、逃げ場を提供したりしようから、サウジアラビアにとっては放置できまい。
そのため、イエメンが南北統一以来、サウジアラビア政府はイエメン政府に対して、経済援助を行ってきていた。しかし、イエメンで政府側とホウシ派側との対立が激化し、戦闘状態に入り始めてからは、イエメン情勢はサウジアラビアが望むような形では、なくなりつつある。
問題はこのイエメン政府が対抗するホウシ派組織が、旧南イエメン側のシーア派の組織だということだ。このためホウシ派組織にはイランの援助があり、相当強い組織になってきていたが、遂にはホウシ側がイエメンの首都サナアを制圧するに至っている。そのことは、イランのイエメンに対する発言力が、増すということでもあるし、その結果として、サウジアラビアは南北両方から、イランの脅威を感じる状態になったということだ。
このイエメンでの変化は、ペルシャ湾の出口であるホルムズ海峡を、イランが押さえており、南の黄海の出口も、イエメンのホウシ派を支援していることでイランが間接的に支配する形になったということだ。これは欧米にとっては、極めて厳しい変化といえよう。
ホウシ派の軍隊がイエメンの首都サナアにある、アメリカ大使館を襲撃するかもしれないということから、アメリカ大使館は既に閉鎖されたし、イギリス大使館も同様であり、多くのヨーロッパ諸国の大使館もその方向にある。最近ではサウジアラビア大使館も、閉鎖されたということだ。
しかし、ホウシ派と良好な関係にあるイランは、イエメンの内情について、それほど悪くはなっていないと語っている。撤退を決めたアメリカが正しい判断をしているのか、あるいはイランの判断が正しいのかは分からない。イランのアメリカ大使館が444日に渡って、イランの革命派の若者たちによって占拠される、という苦い経験を持つアメリカの今回のイエメン情勢に対する反応は、必ずしもイエメンを貶めるための陰謀とは言い切れまい。