ムアース・カサースベという名のパイロットが、IS(ISIL)によってシリアで撃墜され、捕虜となった。彼はその後、12月の段階で殺害されたようだが、あたかも生きているように伝えられ、IS(ISIL)とヨルダンとの交渉の、材料にされてきていた。
ムアース・カサースベ氏の処刑が、火あぶりの刑という、あまりにもひどいものであったことに加え、その様子がフルにビデオで公開された。そのためヨルダンの国民は激高し、IS(ISIL)に対する報復攻撃を、政府に強く求めるデモを実施した。そのデモはいまだに、ヨルダン国内のあちこちで続いているようだ。
ヨルダン政府はこの国民の怒りに答えなければ、政府と王制そのものが、危機に瀕することを恐れたのであろうか、IS(ISIL)に対する本格的な報復空爆を始めた。それはIS(ISIL)が首都と定めた、シリアのラッカ市だけではなく、イラクの国境近くまでを標的としている。
これを想定していたのであろうか、IS(ISIL)はムアース・カサースベ氏が生存中に、ヨルダン空軍のパイロット52人の全ての住所と、階級、任務を聞きだしていた。そして、ヨルダンの空爆が始まると、ヨルダン国内のIS(ISIL)支持者に対して、これらのパイロットを殺害することを呼びかけている。
幸いにして、ヨルダンのパイロットは、まだ一人も暗殺されていないようだが、これから先のことは分からない。ヨルダンはアラブ諸国のなかで、最多のIS(ISIL) 参加者を出している国なのだから、暗殺が起こる可能性を、否定することは出来ない。しかも、IS(ISIL)側は懸賞金をかけてさえいるのだ。
これから先、IS(ISIL)はあらゆる方法で、ヨルダンに攻撃をかけてくるものと思われるが、それが何処まで拡大していくのであろうか。ヨルダン国内では空爆だけではなく、地上軍も投入すべきだという意見も出ている。そうなれば、戦闘ではなく戦争レベルにまで、拡大していくということだ。
イスラエルは既に、IS(ISIL)のヨルダンに対する攻撃が起これば、ヨルダンを支援すると発表している。ロシアもヨルダンによる、IS(ISIL)攻撃で実質的にシリア領土への空爆が続けば、放置するわけには行くまい。
アメリカも空爆が続いていくなかで、自国のパイロットをヨルダンによる、空爆作戦に参加させるかもしれない。そうなると、アメリカ、ロシア、イスラエル、ヨルダン、シリア、そしてIS(ISIL)が戦争を始めるということだ。
そうした動きの脇で、シリアのクルド人たちは、シリア北部を分離独立させ、自分たちの国家を設立することを、目論んでいるのだ。この危険な動きが拡大していくことは周辺諸国にも影響し、中東全域が極めて緊張した、危険な状態に陥るということではないのか。