中東諸国のなかにあって、サウジアラビアはイスラエルに次ぐ、アメリカと信頼関係の強い国だ、と信じられてきたし、事実、サウジアラビアはアメリカが直面する、種々の問題で協力してきてもいる。
例えば、サウジアラビアは世界の石油価格が大幅に動くたびに、減産したり増産したりして、安定的な価格を維持するよう、努力してきた。それはアメリカにとっては、何にも勝る援助だった。このことにより、アメリカは世界の主導国としての地位と、基軸通貨としてのドルを守ってこられたのだ。
しかし、最近になってこの、強いサウジアラビアとアメリカとの協力的な関係に、ひびが入り始めているように、見受けられる。その第一は、サダム体制を崩壊に追いやったことだ、とアメリカのシンクタンクの研究員は、指摘している。
サウジアラビアとしては、サダムに対する、一定の制裁は必要でも、サダムを生き残らせた方が、サウジアラビアとイラクとの関係の上で、得策と考えたからであろう。しかし、現実はアメリカが軍事攻撃をかけ、サダム体制は打倒され、以来、サウジアラビアの隣国イラクでは、カオス状態が続いている。
イランに対しては逆で、サウジアラビアが望む軍事攻撃を、アメリカは未だにかけないでおり、イランはサウジアラビアが恐れている、核兵器保有国になるのではないか、ということになる。
シリアについても、ある意味ではイラン同様で、結局、アメリカはアサド体制を打倒しようとしていない。最近ではアサド体制の打倒を、アメリカ政府高官は全く口にしないようになったのだ。
他方、サウジアラビアはアメリカが呼びかけた、IS(ISIL)打倒のために、いち早く戦闘機を飛ばして、協力しているのだ。こうしたアメリカのサウジアラビアに対する、非協力的な対応が、結果的に中東のバランスを崩している。不安定な状態が、中東全体に広まっているのだ。
そして最後には、アメリカのオバマ大統領の言動が、世界のムスリムの信頼を、失ってきているということだ。古くは、2001年に起こった、9・11事件へのサウジアラビア人の関与だが、サウジアラビア国民のほとんどは、自国民が関与していたとは信じていない。同時に世界の多くのムスリムが、サウジアラビア人と意見を共有しているのだ。
最近ではアメリカとイスラエルとの、信頼関係にもサウジアラビアは、大きな不満を抱くようになってきている。例えば、ガザに対するイスラエルの、非人道的な攻撃を、アメリカが黙認したことだ。
また、イエメンでのホウシ派の勝利は、イランを元気付けることになり、サウジアラビアを始めとした湾岸諸国は、アラビア半島の南北から挟撃される形になり、大きな不安を抱くようになってきている。アメリカはサウジアラビアの信頼を、どう挽回するのだろうか。