トルコの最高裁裁判長はハーシム・クルチュ氏だが、彼はいまトルコ国内のエルドアン批判派の間で、人気を集めている。彼だけがいま正論を吐いている、と評価する多くのトルコ人に、私も会っている。
数週間前には『自分が辞任したら全てを明かす。』と語っているが、もちろん、その重要部分は、一昨年12月に始まった、エルドアン首相(当時)と彼の閣僚や子息たちの関与する、汚職スキャンダル問題についてだ。
今回、ハーシム・クルチュ最高裁判所長官は『法が政府の圧力を受けて身動きが取れない。』と語ったのだ。彼に言わせると、多くの事案が政府側からの圧力を受け、裁判の進行ができないでいる、ということのようだ。
2012年以来、山積されている事案のうち、現在の段階で32000件ある事案が、16000件だけ判決が下ったに過ぎないのだ。これでは、1982年に起こった軍事クーデター時よりもひどい、ということになる。生命の保全、拷問の禁止、思想の自由などが、エルドアン体制下では、犯されているということだ。
そこで、ハーシム・クルチュ最高裁裁判長は、政府の圧力を受けずに、裁判が進められるように、努力するつもりなのだ。加えて、トルコの司法の最高機関である、HSYK(トルコ司法最高評議会)のメンバーの人選についても、政府の関与があり、大半が政府支持の人士によって、そのポストが埋められている。
不正は政府ポストへの雇用は、一般職の雇用の場合でも同じだ。縁故によって臨時雇用になった者が、時間が経過すると何時の間にか、正規の国家公務員になっている、というケースが目立っている。
最近では、マスコミや反エルドアン側の人士によって、縁故就職問題が非難されている。そのことに対して、政府側は預言者ムハンマドの時代にも、縁故就職はあったと開き直っている。
政府の法曹界への介入には、目に余るものがあり、裁判官や検察官警察官が左遷されるばかりではなく、辞任にまでも追い込まれてもいる。トルコのマスコミではこのところ、頻繁に警察官や検察官が逮捕され、拘留されるというニュースが流れている。最近では一定期間拘留された後に、釈放されるケースもあるが、長期にわたって交流されたままになっている警察官もいる。
ハーシム・クルチュ最高裁裁判長はいまのトルコ社会にあって唯一の正論を吐く人物なのであろう。彼が何処まで真実を暴露できるか、それは社会情勢によるところもあろう。反体制の動きが活発になった時点には、彼は辞任の前の段階でも、全てを明かすかもしれない。汚職問題については、全ての書類が整っており、それが裁判沙汰にならないのは、政府の圧力によってだけなのだ。