トルコのエルドアン大統領の横暴ぶりは、最近、特にひどくなってきている。何事につけ、彼に批判的な人士は逮捕され、投獄されている。そうしたエルドアン大統領の行為は、もちろん法律を無視したものであり、裁判官や検察官、そして警察官の中にも、批判的な人たちがいる。
しかし、公然とエルドアン大統領の対応を批判すれば、彼らも左遷されるか首になる状態だ。これまで何百人という検察官や警察官が左遷され、首になっているし、裁判官や弁護士にも、犠牲者が出ている。
そして、最後の牙城がマスコミだったが、これまでに既に、多くのテレビ局や新聞社、雑誌社が、実質エルドアン大統領に対する礼賛、報道をするようになっている。それは各社に圧力を掛けて、編集方針を変えさせ、政府に対する批判は、書かせないようにしたからだ。
また、マスコミ各社を資金的に追い込み、会社をエルドアン大統領支持者に、買わせたりもした。そして、残った数少ない新聞社やテレビ局が、最後の弾圧に直面することになった。
これまで、エルドアン大統領が目の敵にしてきた、ザマン新聞やサマニヨル・テレビの責任者やジャーナリストが、片っ端から逮捕されることになった。一部のジャーナリストたちは、その後釈放されたが、これは明確なエルドアン大統領による、マスコミ各社とジャーナリストに対する、示威行為であり、警告であろう。
ゲジ・パークの破壊と、その土地へのショッピング・モール建設に反対した、ベシクタシュ・サッカー・フアン・クラブのメンバーも、逮捕される始末だ。それが彼らは、汚職反対でデモに参加したことで、いつの間にかクーデター未遂という容疑で逮捕されたのだ。
こうしたエルドアン大統領の蛮行に、遂に在外トルコ人たちが、行動を起こした。ニューヨークでは数百人の在米トルコ人が、国連本部の前に集まり、反エルドアン・デモを行っている。彼らの代表者であるアルトノク氏は『マスコミは政府の敵ではないが民主主義を守る。』と語った。同時に『汚職追求は許すわけには行かない。』とも語っている。
こうした在外トルコ人による、エルドアン大統領に対する抗議デモは、ニューヨ-クだけではなく、ブリュッセルやロンドン、ボストン、ロスアンジェルスでも繰り広げられている。
ブリュッセルのデモでは『マスコミの自由は沈黙しない』『権威主義は去れ』といったスローガンが叫ばれた。
興味深いことは、このエルドアン大統領に批判的なトルコ人たちが、EUに対してトルコのメンバー資格交渉を、止めないで欲しい、と言っていることだ。それはそうであろう。もし、EUがエルドアン大統領の権威主義や、マスコミ弾圧を批判し、トルコのEU資格交渉を止めれば、エルドアン大統領は自暴自棄になり、ますます独裁職を強める、危険性があるからだ。
エルドアン大統領は最近、EUよりもロシアとの関係を強化する、といった発言もしているのだ。
これまで軍部や政府が、一定の範囲で民主的に動いてきたのは、EUのメンバー参加資格の条件に、民主主義の実現があったからに他ならないのだ。
こうした在外トルコ人の動きは、アメリカのなかの民主主義支持者たちによって、支援され始めている。例えば、ハリウッドのスターである、ブルース・デヴィソン氏は『魔女狩りは止めろ』と語り、『オバマ大統領だってウオールストリート・ジャーナル紙やニューヨーク・タイムズ紙が彼の批判を書いても、編集者を逮捕することは出来ない。』と語っている。
彼のような人士が、これから世界中で増えていくものと思われる。そして、それがトルコ国内に影響を及ぼし、反エルドアン大統領運動が、再度盛り上がっていくのではないか。それに徹底して弾圧を加えれば、彼はトルコのチャウシスクと呼ばれよう。
ある段階に至れば、裁判官、検察官、警察官などによる、逆襲が始まろう。また軍部も、何時までもだんまりを決め込むわけには行くまい。既に退役将軍たちによる、現役の軍幹部に対する批判が始まっているのだ。