12月の半ばにエジプトとトルコを訪問してきた。エジプトは国際会議への招待であり、トルコは最近の状況を調べることが目的だった。現地の状況を調べるというよりは、知人たちの意見を聞き、最近の状況一般についての感触を、得ることが目的だ。
彼らの反応は押しなべて、経済はそれほど落ち込んではいないが、トルコ・リラの下落はプラス・マイナス両方だと語っていた。トルコは相変わらず活況があり、イスタンブールの市内には、建設途上のビルが幾つもあった。
エルドアン大統領に近いビジネスマンたちが、大統領の許可を得て緑地帯や、開発禁止区域になっている風光明美な場所に、豪華マンションを建設しているのだ。もちろん、インテリジェント・ビルという、ビジネス用のビルの建設も目立っていた。
こうした一見活況を呈しているトルコの経済について、厳しい意見が飛び交っていることも事実だ。それは政府が反政府とおぼしき者を、片っ端から逮捕し投獄しているからだ。昨年夏のゲジ・パーク開発に反対した、サッカーチームの支持者たち35人が投獄されたが、逮捕から投獄に至る、十分な嫌疑は明かされなかった。
他方、検察が逮捕を支持した汚職の容疑者たちについて警察は逮捕を拒否するという珍事が起こっている。これでは法律があって無いようなものだ。
このためサッカーチームの弁護士は『トルコでは法が政府の玩具に成り下がった。』と非難している。このサッカーチームのメンバーが逮捕された理由は『クーデター』ということだが、実際にはゲジ・パークの建設に反対しただけのものだった。
マスコミに対しても、徹底した締め付けが進んでいる。なかでも、ヒズメト・グループと関連するザマン新聞や、サマニヨル・テレビの幹部はその対象となった。ザマン新聞のエクメル・ドマンル編集長、サマニヨル・テレビのヒダーヤト・カラジャ社長が揃って逮捕された。
サマニヨル・テレビのヒダーヤト・カラジャ社長は、逮捕時に『私の逮捕がトルコの民主化と人権に、プラスになるのであれば、たとえ30年間投獄されても構わない。』と語っている。
このトルコ政府のエルドアン大統領による、傲慢な民主化に対する弾圧は、欧米から厳しい非難を受けている。ヨーロッパ諸国はエルドアン大統領の政策を非難しているだけではなく、ヨーロッパ諸国からのトルコへの投資は激減している。
2007年から2008年の期間には、ヨーロッパからの直接投資額は200億ドルであったが、昨年には64億ドルに減少し、今年は60億ドルにさらに減少している。つまり。政治的な非民主的政策が、ヨーロッパからトルコを嫌わせ、投資先として不適格と判断されたということだ。
この点について評論家のジェンギズ・チャンダル氏は『ロシアがどうして経済危機に陥っていったかを知るべきだ。』とロシアのウクライナ介入から始まる、西側による締め付けとその結果について語り、トルコの直面する危機的状況を指摘している。
筑波大学で博士号を取得し現在ではトルコで経済表理論家として著名な、イブラヒム・オズトルク教授は『能力と経験そして明確な政治の方への介入が、外国の投資家に嫌気を指させている。エルドアン大統領が現在進めていることは、輝く星だった数年前とは異なり、トルコは現在では魅力的な投資先ではなくなっている。』と手厳しい批判をした。
エルドアン大統領の国民からの支持は、あくまでも経済の発展であったのだが、ここにきて、その一番重要な経済が不安定化してきているということだ。したがって、エルドアン大統領に対する支持も、そう長くは続かないのではないか。最大の支持国であったはずのアメリカとオバマ大統領は、すでにエルドアン大統領については、さじを投げたようだ。