昨年の12月に燃え上がった、トルコ要人とその子息たちにかかわる汚職問題は、当時首相だったエルドアン氏の、強引な対応で鎮静化した。エルドアン首相は検察官や警察官の汚職取り締まりに動いていた幹部を、ことごとく左遷あるいは降格、あるいは首にしたのだ。そればかりか、弁護士や裁判官もエルドアン首相の、力の政策の犠牲になっている。加えて、マスコミはすべてがエルドアン首相の、意向通りに報道するように、圧力をかけられもした。
その後の大統領選挙で、エルドアン氏は当選し、当初、首相用に建設中だった公邸を、自分が使うと言い出して、現在そこに納まっている。その公邸の規模はギネスに載るほど大きなものであり、マスコミが書いた『公邸には1000室ある』という報道を、1150室だとエルドアン大統領が訂正している。
しかし、この大規模な公邸の建設には、膨大な費用が掛かっているわけであり、押しなべて国民の評判は悪い。そのことに加え、国民のほとんどがいまでは汚職がある、と信じるようになっている。それは経済の後退も影響しているのであろう。
最近、ダウトール首相の顧問に就任しているエテイン・マフチュピアン氏は、国民のほとんどが汚職があったと信じている。したがって、政府はしかるべき対応をしなければならないと語り、それを語ることが出来なければ、自分は顧問の職にとどまるべきではない、とも語った。
そうしたこともあってか、ここにきて汚職問題が国民の間で話題になり始め、マスコミも再度汚職問題を、取り上げるようになってきている。たとえば、汚職で辞任した4人の閣僚は、再度取り調べられるかもしれないし、そのうちの最も悪い元内相は、議会の最高査問委員会にかけられそうだ。
ちなみに、その4人の元閣僚とは、元内相のモアンメル・ギラール氏、経財相のザフェル・チャーラヤン氏、EU担当相のエゲメン・バーイシュ氏、環境開発相のエルドアン・バイラクタル氏だ。そして彼らの子息たちと、官僚も汚職追及の対象に、再度なり始めている。
内相のモアンメル・ギラール氏は何とか、その査問委員会にかけないでくれ、と懇願している状態だ。そうなると、司法取引で彼が汚職の実態を、全て暴露するかも知れない。そうなれば、エルドアン大統領が首相当時、どのように汚職に関与したかが、明らかになるということだ。
こうした動きが起こったのには、来年に控えている地方選挙があるからだ。与党AKP内部では、汚職問題がこのまま放置されれば、次の選挙でAKPは大敗北が予測されるという、不安が拡大しているのだ
これだけではない。今もう一つ話題になっている汚職問題は、エルドアン大統領の子息ビラール氏が運営する、青年組織TURGEV(トルコ青年教育基金)が、イランのマネー・ロンダリングなどに絡み、巨額の賄賂を取っていたということも、報じられるようになっているし、その問題に加え、ビラール氏の経営する船会社が、マルタ船籍にして、一切トルコには税金を支払っていないことも、知られるようになってきた。
そして、もうひとつエルドアン大統領にとって不安な問題は、これまで全面的に秘匿してきた、PKKのオジャラン議長との、秘密合意が暴露されることだ。つまり、エルドアン大統領は クルド問題の早急な解決を望み、大幅な譲歩をした可能性がある、と思われているからだ。