イスラエルのアシュケロン市のイタマル・シモニ市長が、パレスチナ人雇用を禁止するという決定を下した。それにはそれなりの理由があるのだが、結果的には、イスラエルとパレスチナとの緊張を高める、原因の一つになってしまうのではないか。
イタマル・シモニ市長がパレスチナ人雇用禁止を言い出したのは、市民の間からパレスチナ人労働者がいることは危険であり、特に学校など人は近づけたくない、という要望を受けて判断したものだった。
もちろん、この決定に即座にイスラエルのパレスチナ議員がかみついた。クネセト議員(国会)であるアハマド・テイビは、『決定はイスラエルとパレスチナとの間に、火花を散らすことになる。』と警告している。
彼ばかりではない。イスラエルのメレツ党のエダン議員も、アシュケロン市長に圧力をかけ始めている。彼は『アシケロン市長の判断は間違いだ。』 と断言し、『われわれはこの時期こそ、コミユニテイを壊してはいけない。』とイスラエル・ラジオで訴えている。
もちろん、アシュケロン市長の決定は機会平等法に反するものだ。この法律では雇い主が、相手の宗教などで差別をしてはならない、ということになっているのだ。
現在のイスラエルの人口は、800万人に達しているが、そのうちの20パーセントは、パレスチナ人であり、無視できない割合になっている。
問題は、アシュケロン市長が出した決定のタイミングが、非常にまずいということだ。イスラエルやパレスチナ自治区では、ともに第三インテファーダが起こる危険性が、指摘されているし、現実に毎日のようにパレスチナ人による、テロ事件が起きているのだ。他方、イスラエル側もパレスチナ人に対する、不当逮捕や暴力行為に及んでいる。
そもそも、パレスチナ人のイスラエルに対する不満と敵意は、土地そのものにもあるのだが、日々の生活がかかっている、仕事の機会が大きな意味を持っているのだ。失業率の高いパレスチナ人に対して、職を奪う決定を下すことは、火に油を注ぐようなものだ。
この愚かなアシュケロン市長の判断を、もし政府が覆さなければ、本格的な反イスラエル行動(デモやテロなど)が、イスラエル国籍を有する、パレスチナ人の間から起こってくる、ということではないのか。
そうなれば、ガザ地区やヨルダン川西岸地区と、イスラエル国内のイスラエル国民になっている、パレスチナ人同士の連帯が強化され、不測の事態にまで発展する、危険性があるということだ。
いまパレスチナ人の心理状態は、そこまで追い詰められ、不満と怒りが鬱積し、暴発の寸前にあるのだ。そして、ガザ戦争による2000人を超える、パレスチナ人の犠牲に心を痛めていない、パレスチナ人はいないのだ。