『アメリカの教授がシリア分割案提示』

2014年11月19日

 

 もう大分年月が経過したが、アメリカの退役大佐であるラルフ・ピーターズ氏が『新中東地図』なる論文を発表したことがある。まさに荒唐無稽なような話であり、日本人の識者にそのことを知らせても、反応は芳しくなかった。

 しかし、この『新中東地図』で示された考えは、今日なお一部で動いているのだ。その中にはリビアの分割やイラクの分割、トルコやサウジアラビアの分割のことなどが、書かれてあった。

 トルコの南東部は現在では、クルド人が実質的には支配しているし、リビアは東西と南部に3つに分裂し戦闘が続いている。イラクは北部のクルドが自治政府を設立して、既に何年もの歳月が経過しており、実質的な分割が起こっているのだ。

サウジアラビアはそれほど明確な兆候は出ていないが、ペルシャ湾に面するアルカティーフ地区では、シーア派国民の夜反政府デモが起こっており、死傷者も出ている。 IS(イスラム国家)がサウジアラビアの体制に対する、挑戦状をたたきつけたが、今後サウジアラビア国内では、反政府派が活発に動き出す危険性が、高まっていくのではないか。

つまり、リビアでもトルコでもイラクでもサウジアラビアでも、程度の差はあるものの、分割の傾向が見えているのだ。そうなっていくと、ラルフ・ピーターズ氏が書いた論文は、単なる研究目的のものではなく、アメリカ政府が分析検討を依頼したものであった、と言えるのではないか。

そのことを前提に考えると、今回出てきた論文も、シリアの将来に大きな影響を、及ぼすのではないかと思える。その論文とはオクラホマ大学の中東地域研究のトップである、ランデス・ジョショウ教授が書いたものだ。

ランデス・ジョショウ教授はシリアを4つの地域に分ける提案をしている。その提案によれば、南部はダマスカスを首都とし、北部はアレッポを首都とするスンニー派の国家、そして地中海に面したアラウイ派の国家と、イラクとトルコに隣接するシリア北東部に、クルド国家ができるべきだというものだ。

しかし、こうした提案が実現していくには、シリアに関係する大国の意向が、どうかということを、考慮しなければなるまい。現段階では表面的かもしれないが、アメリカもロシアもシリア分割に賛成してはいないし、反アサド派国民も分割に反対している。

もし分割が行われた場合に、それぞれの新国家は、何を経済の主柱としていくかも、考えなければなるまい。国家として成り立っていくには、資金源が無ければ軽々に分割をするはずがない。たとえスンニー派とシーア派の対立があったとしても、過去の歴史がどうなっていたかも、決定的な分割の要因にはならないだろうと思われる。

しかし、今回の場合もラルフ・ピーターズ提案と同じように、今後のシリアの動向にそれなりの影響を、与えていくのではないのか。