『エルドアンの判断はトルコを窮地に立てた』

2014年11月 7日

 

 トルコのエルドアン大統領が、欧米の強い圧力を受けて、シリアのコバネに居住する、クルド人の救済に乗り出した。それはイラク・クルド自治政府が擁する、ペシュメルガという軍隊を、コバネに送ることだった。

 しかし、トルコとて愚かではない。ペシュメルガ部隊のコバネ派兵には、人数面で制限を加えた。もちろん、表向きはコバネのクルド人の意向ということであり、その数は150人と決まった。

  このペシュメルガ軍がコバネに入ると、IS(ISIL)側の攻撃が緩んだ。それはペシュメルガ軍が精鋭であるということに加え、アメリカ軍や同盟軍の空爆が、始まっているからでもあろう。結果的にIS(ISIL)は、今までのような破竹の勢いでの、進軍というわけにはいかなくなったのだ。

 こうした状況の変化に優気づいたのは、クルド人たちだった。最近では、トルコ南東部のシュルナク県のシロピ地区や、ジズレ地区では自治の盛り上がりが見られ、すでにクルド人はこれらの地区には、トルコの軍や警察は入れない、と息巻いている。もちろん、その中心になっているのは、PKK(クルド労働党)に他ならない。

 欧米諸国はトルコのIS(ISIL)に対する対応が甘い、とクレームをつけていたが、トルコ政府はIS(ISIL) PKK、そしてシリア政府はテロ組織だと非難してきている。したがって、エルドアン大統領に言わせれば、それらのテロ組織を撲滅するには順番がある、ということになり、最優先すべきなのは、あくまでもシリアのアサド体制だ、としてきていたのだ。

 ペシュメルガ軍をコバネに入れたことが、いまになってみれば、極めてリスキーなものであったことが分り、トルコの国防相は二度とペシュメルガ軍を、増兵させないと言明している。そうは言っても、今となっては国防相の発言は、特別な意味をなさないだろう。

 PKKの幹部は『トルコ軍がクルドを潰すことはできないし、クルド側もトルコ軍を潰すことはできない。残された道は双方の代表が話し合いで、問題の解決を図ることだ。』つまり、今回のコバネ派兵で勢いづいたクルド側は、まさに交渉の絶好のタイミング、と判断したのかもしれない。

 しかし、クルド側がそれほど優位に立っているかといえば、そうでもなかろう。先日コバネに入っているクルド人が、IS(ISIL)側に情報提供をしている、という話をご紹介したが、クルド人のスンニー派のなかには、IS(ISIL)を全面的に支持する組織も、あるということだ。その組織の名はフダ‐パルということだ。

 つまり、PKKやその組織と歩調を合わせるグループは、クルド人に訪れた最大のチャンスと騒いでいるが、現実はそうバラ色でもない、ということではないのか。これまで何度となく、クルド分離独立の夢は語られたが、今回の夢は現実のものとなるのだろうか。