クルド人は世界で最も数の多い、国家を持たない民族として、世界的に知られる民族の悲劇とされてきた。クルド人はトルコを始めシリア、イラク、アゼルバイジャン、そしてアルメニアにも住むといわれているが、そのクルド人の総数は4000万人とも、5000万人とも言われている。
悲劇の民族クルド人にとって、今回のコバネの戦いは、あるいはクルド人が国家を持つ夢を、実現させるのではないか、と噂されてきていた。一説によれば、IS(ISIL)はアメリカやサウジアラビアが支援し、他方、クルド側ははイランが支援している、と言われていたからだ。
しかも、コバネのクルド人対IS(ISIL)の戦いでは、イラクからクルド人のペシュメルガ部隊が支援に駆けつけており、クルド人がIS(ISIL)に勝利すれば、一気に国家設立の雰囲気が、クルド人の間で広がるだろうと言われていた。
ところが、そうしたクルド人の夢を、台無しにする動きが出てきている。それは、同じクルド人が敵側のIS(ISIL)に対して、情報提供しているというのだ。コバネの地理を教え、案内をし、戦闘にも加わっているようだ。
このグループはイラクで1988年に起こった、サッダーム・フセイン軍による化学兵器を使った大量虐殺の現場である、ハラブジャの出身だというのだ。
このクルド人の裏切者たちは、コバネのクルド人とは違う、戦闘服を着ていることや、言葉に違いがあるために、すぐわかるということのようだ。なかには、クルドの民族衣装をまとっている者も、いるという話だ。
以前なぜクルド人がまとまらないのか、という質問を受けた時に、クルド人には共通言語が無いことや、そのために教科書ができていない話などを、したことがある。一説によれば、クルド人はそれぞれの部族や居住地で、28もの異なった言葉を話している、ということのようだ。
トルコに居住するトルコ系クルド人は、トルコ語混じりのクルド語であろうし、イラクではイラク・アラビア語混じりのクルド語であろうし、シリアでもシリア・アラビア語混じりのクルド語ということになろう。
そうなると、クルド人の意思を一本化することは、極めて難しいことであろう。それがもしできるとすれば、クルドという国家が設立してから後、大変な努力を必要としよう。ユダヤ人はイスラエルという国家を持った後に、ヘブライ語を完成させている。
クルド人の国家の夢が潰えようとするいま、イランがクルド国家を作り、地域の覇権を広げようとする夢も、費えるということであろうか。一つの歯車が狂いだすと、それはすべての歯車に影響を及ぼすように、今回のクルド人のクルド人に対する裏切りは、地域の政治動向を、一変させてしまうかもしれない。