『何故コバネ(アイヌ・ル・アラブ)が重要なのか』

2014年11月 1日

 

 シリアの一地方の町コバネ(アイヌ・ル・アラブ)が、世界の注目を集めるようになったのは、アメリカ軍が本格的にコバネの戦闘に、参加したことによろう。コバネで始まったクルド人とIS(ISIL)との戦いで、もし、クルド側が敗北すれば、多数のクルド人が虐殺される、という不安が広がっていた。

 こうして世界的に有名になったコバネの街について、際近ジョークが語られている。『シリアは何処にありますか?シリアはコバネの南に位置する国ですよ。』つまりシリアの国名よりもコバネの街の名前の方が、国際的に知られるようになったということだ。

 そのコバネにはいま、FSA(自由シリア軍)やイラク・クルド自治政府の軍隊、ペシュメルガが戦闘員を送っている。それはトルコ政府が欧米の強い圧力を受けて、やむなく許可したものだ。

 何故トルコはコバネの戦いに、イラク・クルド自治政府のペシュメルガ軍が参戦することを、嫌っていたのであろうか。それはこの地域における、クルドの存在がトルコにとって、現在もそうであるが、将来的には大きな脅威になる、危険性があるからだ。

 エルドアン大統領は自国内で、トルコ人を4万人も殺害し、30年以上も抵抗を継続している、PKK(クルド労働党)とコバネのPYDは、同じテロリストだと非難している。

 シリアのコバネに居住するクルド人を救え、という叫びが欧米で広がり、中東のクルド人の間にも広がった。その結果が、イラク・クルド自治政府のペシュメルガ軍の、今回のコバネ参戦に繋がっているのだが、その結果、クルド側がIS(ISIL)に勝利すれば、たちまちにしてこの地域の、クルド人は団結し、クルド国家樹立に向けて、動き出すことが予測される。

 クルド人が連帯して、最終的はクルド国家樹立に繋がる可能性は、欧米諸国もロシアも歓迎しているようだ。最近のロシア外務省のコメントも、クルド国家が樹立されることを歓迎する内容だった。

 ただそうだからと言って、今回のFSAやペシュメルガ軍のコバネ参戦が、クルド側の勝利に繋がるかというと、そうでもない部分がある。それはコバネに集まったFSAの戦闘員が、『クルド人の指揮下では戦闘したくない』、FSA戦闘員は『トルコ軍人の指揮下でも戦いたくない』、そして、そもそも『IS(ISIL)とは戦いたくない』、と思っている者が少なくないからだ。

 いずれにしろ、コバネの戦いはアメリカ軍とその同盟諸国の参戦や、イラク・クルド自治政府のペシュメルガ軍の参戦、そしてFSA(自由シリア軍)の参戦は、クルドに新しい将来への、スタートを切らせたようだ。

このコバネの街は、実は湾岸の石油ガスの将来の、通過地点なのであり、コバネ地域はシリアに水を運ぶ、ユーフラテス川の通過地点でもあるのだ。もちろん、シリア北部地中海海底ガス、内陸部の石油もこの地域を抜きにしては、考えられないのだ。

 だからこそアメリカやヨーロッパ諸国が、大きな関心をコバネの戦闘に寄せているのだ。それをトルコのエルドアン大統領が、知らないはずがない。前回のブログで、エルドアン大統領は本心を語っていない、と書いたのはそのためなのだ。エルドアン大統領もコバネの重要性を十分わかっているし、コバネの戦闘をきっかけに、地域各国のクルド人が連帯し、統一して国家を樹立していくことの危険性を、十分理解しているのだ。