『IS(ISIL)は中東のクメール・ルージュか』

2014年11月15日

 

 シリアで猛威を振るうIS(ISIL)の関係で、イスラム原理主義という言葉が再度注目を集めるようになった。加えて日本人にはあまりなじみの無かった、カリフという言葉も、日本のマスコミに登場するようになった。

 イスラム原理主義が世界的な規模で、活動するようになった一つの要因は、エジプトに始まるムスリム同胞団であろう。驚くことに、中央アジアのイスラム原理主義運動の一部は、ムスリム同胞団の強い思想的影響を受けていた、ということのようだ。それはタジキスタンのナハダ・イスラム党だ。

 このナハダ・イスラム党以外にも、中央アジアにはウズベキスタン・イスラム運動、ウズベキスタンのカラーミーヤ組織、クブルデーン・ブルカール、チェチェン書簡組織、アフガン・アラブ組織といった原理主義組織があるが、一部は政府の弾圧で壊滅しているようだ。

 これらのデータはアッサフィール紙の記事によるが、同記事にはタジキスタンにあったイスラム解放党組織が、カリフ制の復活を夢見ていたようだと書いている。そのためこの組織は非暴力主義を取っていたようだ。この組織はテロや武力闘争、暴力は一切用いない姿勢だったということだ。現在のバグダーデイのIS(ISIL)組織は、無差別に殺人を繰り返しているが、カリフ制の名の下に、そのような蛮行が許されるはずは無かろう。

 バグダーデイはカリフを名乗る前の段階で、彼の本名イブラヒム・サマライからアブーバクル・バグダーデイ、つまりバグダッドのアブーバクルに改名している。アブーバクルとは初代のカリフ(預言者ムハンマドの後継者という意味)の名前であり、イブラヒム・サマライはそれをまねたのであろう。

 歴史の中で何度も登場してきた、イスラム覚醒運動や原理主義運動の多くは、いずれも政治的イスラム(ポリテイカル・イスラム)だ。宗教と政治が一体となると、政治の発想は宗教によって、極めて融通の効かないものになってしまい、往々にして独善的になり、過激なものとなっていく。

 アブーバクル・バグダーデイの率いるIS(ISIL)も然りだ。IS(ISIL)は他を認めずに、共通の敵を持つイスラム原理主義の組織ですら、情容赦なく対応するようになる。シリアでは元は一体だったヌスラ組織のメンバーを、IS(ISIL)は攻撃し虐殺しているのだ。

 宗教的解放運動が政治と結びついたとき、あるいは政治運動が宗教と結びつた時、それはレリジョンでは無く、イデオロギーに変わってしまうのだろう。シリアのIS(ISIL)の動きを見ていると、カンボジアのクメール・ルージュの末路を、見ているような感覚に襲われる。