何事にも勢いというものがある。ある時期はその勢いが、すべての問題を解決してくれるし、ある時期になると、それがまったく機能しなくなるものだ。最近のIS(ISIL)の動きを見ていると、幾つかの点で運気が、下がっているのではないかと思える。
第一にIS(ISIL)の勢いをそいだのは、アメリカ軍による空爆であろう。イラクでの空爆では多数の幹部が、死傷したと報じられているし、その死傷者のなかには、アブーバクル・バグダーデイも含まれていた、ということのようだ。
イラクやシリアから伝わって来る、最近の情報によれば、どうもIS(ISIL)は守勢に回っているようだ。イラクのモースル・ダムは完全にイラク軍によって奪還されているし、イラクのデヤーラ市やシリアのドマイルの街も、それぞれの軍によって、IS(ISIL)の支配から解放されている。
もう一つの理由は、IS(ISIL)がだんだん資金難に、陥ってきているのではないかということだ。サウジアラビアが断行した石油価格の引き下げで、当然IS(ISIL)が密輸する石油価格にも、大きな影響があったものと思われるし、次第に危険を感じた密輸業者たちが、IS(ISIL)との石油取引から、手を引き始めているのではないか。
IS(ISIL)はシリアやイラクのバイジの製油所を、手放したという情報もある。これでは現金収入が減って当然であろう。シリア政府がIS(ISIL)から石油を買っている、という話が出たが、それが明らかになっては、シリア政府も購入を継続できまい。
IS(ISIL)の戦闘員はもともと、十分な訓練を受けている者は少なく、いわば戦闘の素人集団でしかない。イラクやシリアそしてクルドの正規の軍隊と、真剣勝負で戦えば、どうしても守勢に回らざるを得まい。
そこで最近、IS(ISIL)がとり始めたのは、一般の部族民を襲撃して、捕虜とし、殺害する恐怖戦法であり、その上で税金(みかじめ料のようなもの)を徴収しているのだ。最近になって、部族民が多数虐殺された、ジャーナリストや国際支援組織の人が虐殺された、というニュースが継続して流れている。つまりIS(ISIL)は弱者を狙って攻撃している、ということだ。加えて人質を取り保釈料を取るという戦法だ。それに応えない場合には、容赦なく殺害するという手法だ。
これまでIS(ISIL)のスポンサーといわれてきた、サウジアラビアやカタールからの支援は、ほぼ途絶えているのではないか。加えて、トルコも戦闘員の同国通過については、次第に締め付けを、強化しているのではないのか。それはアメリカの強い意向を、受けているからだ。
世界中のイスラム原理主義者たちからの、IS(ISIL)に送られた寄付が集まる、銀行勘定への厳しいチェックや、空からの監視による戦闘員、武器、食料など、あらゆる物資の輸送面での困難化など、どれをとってみてもIS(ISIL)にとっていい材料はない。
今後はIS(ISIL)の一時期の勢いは衰えていく、と判断するのが正解ではないか。そうなると、世界から集まった戦闘員たちも、次第に戦闘から離脱して、帰国していくのではないのか。