『中東地図は変わるとイスラエルの国防相語る』

2014年10月25日

 

 もう5、6年以上が過ぎているだろうか。あるいはそれ以上が経過しているかもしれない。アメリカの退役大佐ラルフ・ピーターズが、新中東地図という論文を軍の機関紙で、発表したことがある。

 当然、アメリカの軍人が書き、それが公式の出版物に、掲載されたということは、アメリカ政府の方針となんらかの関係が有る、と考えるのが普通であろう。それでその論文の一部を、日本で発表したが誰も関心を払わなかった。

 そればかりか、その後に出版した本の中で、そのことを書いたところ、著者の夢想幻想であり荒唐無稽と馬鹿にされた記憶がある。しかし、東京財団が開催した大使会議で話したときには、パキスタンの大使が食いついてきたし、トルコで発表した時には、主要紙のトップ・ページに私の話が載った。日本人には国際的な意味での、危機感がまるで無い、ということであろうか。

 今回はほぼ同じ話が、イスラエルのヤアロン国防相によって語られた。彼に言わせると、ヨーロッパが人工的に引いた国境線は、既に通用しなくなり、一部では既に、描き変えられているというのだ。

 ヨーロッパの引いた人工的な国境は破壊された。リビアは第一次世界大戦の後に、ヨーロッパが作り出した国家だが、現状は極めて不安定であり、3分割の話も出ている。

 同様に、イラクも実質的には、クルド自治政府の誕生で、国土が分裂状態にあるし、シリアは混沌の中でシリア政府と、IS(ISIL)とによって、2分割されているのではないか。

 ヤアロン国防省はエジプトとイスラエルの国境については、今後も不変であろうと語っている。当然であろう。このことでもし国境が描き変えられる、とヤアロン国防相が語れば、それはイスラエル政府が、エジプトの領土奪取に関心がある、とエジプト側に受け取られるからだ。

 パレスチナの難民については、難民の帰還を許すことは、イスラエル政府の頭の中には、全く無いと全面的に否定している。470万人にも達している、パレスチナ難民が帰還した場合に、居住するスペースが残されていないからであろうし、そのことはイスラエルの安全を、脅かす危険性があるからだ。

 イスラエルはこれまでに、500以上の村を破壊し住民を追放し、幾つもの街を地図上から消してきている。その後には、イスラエル人が入植地を設立し、快適な暮らしをしているのだ。

 ヤアロン国防省はこの時期に、何故中東の国境が変わり、地図が描き変えられる、と言ったのであろうか。それえはアラブ側の混乱が、イスラエルの拡張への野望を、くすぐっているからではないのか。そして、そもそもヨーロッパが描いた地図にこそ、根本的な問題があるのだ、と責任を転嫁しようとしているのではないのか。