『エルドアン大統領の正念場.米とクルドで対立』

2014年10月20日

 

 トルコのエルドアン大統領がどうやら、窮地に立たされているようだ。それは、シリアのトルコに隣接するコバネの攻防戦を巡り、アメリカは空爆だけではIS(ISIL)を掃討できないと判断し、クルド側に武器を供与したい意向だ。

 しかし、トルコ側にしてみれば、それは命取りになりかねない、危険性を含んだものだ。述べるまでもなく、トルコはクルド問題で30年以上も苦しんできている。クルドの分離独立運動を進めるPKK(クルド労働党)との戦いでは、民間人を含む4万人が犠牲になった、と報告されている。

 トルコはコバネについては、難民は受け入れたものの、再度彼らがコバネに戻り、戦いに参加することを禁じているし、トルコ国内のPKKを含むクルド人の参戦も阻止している。エルドアン大統領に言わせれば、コバネの戦いで、クルドの味方をする者は、テロだということになるのだ。

 そのエルドアン大統領の論理でいけば、いまコバネのIS(ISIL)を空爆し、コバネのクルドに武器を与えようと考えているアメリカは、テロ国家ということになってしまう。

 アメリカはシリアのクルド組織であるPYDとの間で、すでに武器供与の交渉を初めているが、エルドアン大統領はこのPYDについて、PKKと同様のテロ組織だ、と断定し非難している。

 もちろん、アメリカ政府は現状を考え、人道的な見地からもシリアのコバネに居住し、ISと戦い続けているクルド人の、味方をしないわけにはいくまい。したがって、アメリカは相当の圧力をエルドアン大統領に、かけているものと思われる。

 トルコのエルドアン大統領にとって不愉快なのは、クルドの組織PYDはシリアのアサド大統領との間に合意ができていて、他の反シリア組織とは敵対関係にあり、ヌスラ組織やIS(ISIL)とも敵対関係にあるのだ。

 このことは、PYDを始めとするクルドは、トルコにとって敵以外の何者でもない、ということだ。エルドアン大統領のこれまでの、シリア問題への関与は、あくまでもアサド体制打倒にあるからだ。

 さて、トルコのエルドアン大統領は、自分の意向とは全く異なる、クルドへの武器供与を、受け入れざるを得ないのか、あるいはあくまでも自身の考えを通し、アメリカの申し出を拒否するのか。

 もちろん、エルドアン大統領がアメリカに対して、クルドへの武器供与で『ノー』と言えば、その後のアメリカとトルコとの関係は、明らかに悪化していくことであろう。

 現在トルコの経済状態はバブルの頂点を過ぎ、下降線を描き始めているが、対米関係の悪化は、トルコの経済を一気に奈落の底に、突き落とすかもしれない。