エジプトの周辺諸国からは、石油やガスが生産されているのに、何故エジプトからだけ出ないのか、という疑問が長い間エジプト国民の間に広がっていた。この疑問に対して、エジプト国民はアメリカの圧力によるものだろうと考えていた。
エジプトが経済的に豊かになれば、エジプトは兵器を装備し、アメリカの盟友であるイスラエルの安全に、脅威となるからだというのが、その説明だった。
しかし、最近はアメリカによる、エジプトの石油・ガス開発への邪魔が、効果が無くなったと判断している。それは、石油・ガスの探査や掘削が、欧米以外の国でも十分に出来るようになったし、資金もあるというのだ。たとえばロシアや中国は、十分にその能力を持っているということだ。
日本はいまだにアメリカの強い影響下にあるために、エジプトの石油・ガス開発には乗り気でないが、中国などは進出してくる強い意志がある、とエジプトは見ている。そうなれば、これまで躊躇していたヨーロッパ諸国も、出て来ざるを得なくなる、ということであろう。
エジプトの今年の夏は停電が頻発し、国民から不満が出た。そこでシーシ大統領は、メガ・プロジェクトの一つとして、エジプトの石油・ガス開発に力点を置く方針を決めた。国内消費のためと、そのことによる外国からの、投資呼び込みのためだ。
エジプトはすでに外国企業との間で、35の契約が結ばれており、それは最低でも何十億ドルの投資をすることが条件になっている。一部の契約は投資額が、102億ドルを超えるということのようだ。
シーシ大統領は石油・ガス開発に加え、石油の精製設備の補修と、新設も計画している。石油の精製施設については、93億ドルの投資をする予定になっている。現在進行中のものが、そのうちの57億ドル分だということだ。また石油化学分野への投資は、43億ドルとなっている。
こうしたシーシ大統領の強気の開発計画は、第二スエズ運河計画で出てきた、エジプト国民の箪笥貯金の多さにも、原因があるのかもしれない。その時、ドルが売られエジプト・ポンドに替えられて、第二スエズ運河開発債をエジプト国民は買ったが、ドルの値段が下がることはなかったし、貯金も減ることがなかったということだ。まさにエジプト国民の箪笥貯金が、巨額であることが分かったということだ。
加えて、エジプトがアラブ諸国のなかで、再評価されていることにも原因があろう。湾岸諸国の多くは、アメリカには既に自国を守ってくれるだけの、余裕がないと判断したようだ。サウジアラビアはエジプトがロシアから、大量に兵器を購入する際に、全額を支払ったといわれている。
エジプトの西に位置するリビアは、国内混乱が収まらないなかで、エジプトの協力を強く求めるようになっている。リビアのハフタル将軍のカイロへの一時避難や協力依頼、内相のエジプトに対する自国警察の訓練要請など、エジプトへの要請は増加している。エジプトはこの波にうまく乗り切れるだろうか。