『トルコIS(ISIL)戦争に参戦議会決議』

2014年10月 3日

 

 102日のトルコ議会で、IS(ISIL)に対する参戦が決議された。投票結果は賛成298票対反対98票であったが、当然の結果であることは、予党が多数を占めている以上、誰にも予想がついていた。

 トルコのユルマズ国防相は、今回の参戦がクルド問題の解決に、悪影響を与えることはないと語っている。それはシリアのクルド人居住区であるコバネ市が、IS(ISIL)によって攻撃されているのを放置するならば、トルコ政府との和平交渉は中断する、とPKKのオジャラン議長が語ったことを、受けての発言と思われる。

 この結果について、シリアやイランは、決して歓迎していないようだ。それは野党CHPのハムザジェビ議員が語るように、トルコ軍の参戦目的はIS(ISIL)に対する攻撃よりも、シリア政府と軍に対する攻撃になる、と考えているからであろう。

 イランはそのことに加え、トルコ軍の参戦はシリアの領土の一部を、トルコが併呑し領有することが目的だと非難している。このイランの指摘には、それなりの理由がある。それはエルドアン大統領が、シリア領土内にあるスレイマン大帝の廟を守る、と発言しているからだ。トルコは今回の参戦でスレイマン大帝の廟のある地域までを、占領する意向なのかもしれない。

 トルコの参戦に対し、トルコクルド党H DPのクルクジュ氏議員は、トルコ政府がこれまでIS(ISIL)に対して支援してきたことを指摘し、現在なおIS(ISAIL)に対する支援が続いている状況を考えると、トルコ政府がIS(ISIL)打倒に参加するということは、信じがたいと語っている。

 トルコ政府は欧米に対しては、IS(ISIL)戦争に参加すると発言し、良好な関係を維持しようとするが、イランが言っているように、本音ではアサド体制打倒と、シリアの領土の一部を奪取することが、目的なのかもしれない。

トルコに言わせれば、もともとこの地域はオスマン帝国の領土であったものを、第一次世界大戦での敗北で切り離されてしまったのだ。したがって、チャンスがあればトルコが取り返すのは当然だ、という論理であろう。

 トルコ政府はIS(ISIL)との間では、トルコ軍の攻撃対象はIS(ISIL)ではなく、シリア軍であり、シリアのアサド政府の打倒が、目的だと説明しよう。その二枚舌の行動がはたして IS(ISIL)との関係を良好な状態で維持していけるのか、欧米諸国との関そしてISとの良好な関係を維持していけるのかは、今後のトルコ軍の動きによろう。

 ただし、アメリカ政府の本音も、IS(ISIL)掃討だけではなく、アサド体制打倒にあることを忘れてはなるまい。もしそうであるとすれば、トルコ軍がもっぱらシリア軍を攻撃対象にするような動きに出ても、あまりトルコを非難しないかもしれないのだ。

 戦争には各参加国の利益と、思惑がかかっていることは述べるまでもないが、今回のケースは特別に複雑なようだ。