トルコがIS攻撃のグループに参加することが、トルコ議会で正式に決定した。そのことは欧米諸国を喜ばせたようだが、トルコ政府が考えるIS戦争参加には、欧米とは別の目的があることが、ほぼ明らかになってきた。
トルコのエルドアン大統領は、今回のIS打倒戦争に参加する形で、シリアに軍を送り、トルコ自身の目的を果たすことを考えているようだ。その目的とは、シリアの反政府勢力であるFSAとISを戦わせるように見せ掛け、FSAを強化し、アサド体制を打倒することにあるようだ。
例えばトルコ政府が欧米に働きかけている、シリア北部の飛行禁止区域(ノー・フライ・ゾーン)の設定は、現状から考えてみて、IS対応とは言えない。IS側はヘリコプターも戦闘機も、所有していないからだ。
そうなるとこの飛行禁止区域の設定は、アサド体制側つまり、シリア軍の軍事行動を規制することが目的だということになる。それはFSAを有利にすることになるのは、述べるまでも無い。しかし、この飛行禁止区域の設定案に付いて、アメリカは考えの中に入っていない、と否定している。
エルドアン大統領が希望しているのは、この飛行禁止区域の設定に合わせ、緩衝地帯の設定だ。この緩衝地帯が設定されれば、シリア軍はその区域に、軍事侵攻できないことになる。その範囲がどの程度であるかは分からないが、それは将来的には、トルコの影響力の、極めて強い地域になろう。つまり、実質的なトルコ領土になるということだ。
エルドアン首相はスレイマン大帝廟の、絶対保護を叫んでいる以上、当然、スレイマン廟のある地域も、その対象となろう。また、現在激しい戦闘が展開しているといわれている、コバネ地域もその中に含まれよう。
ただし、この地域はトルコが秘密裏に、ISの支配を許すのかもしれない。なぜならば、トルコ領内に逃れた難民の多くが、コバネに帰還して戦闘に参加しようとしているが、トルコ政府はそれを拒んでいるからだ。
そうなると、コバネでは不利な立場におかれるクルド側に、多くの死傷者が出るであろうし、ISによってコバネが支配されることが予測される。そのような事態は、トルコのエルドアン大統領にしてみれば、クルド対策上好都合なことであろう。
シリアの北部にいるクルド人は、トルコの反体制クルド組織であるPKK(クルド労働党)と連帯しているといわれているYPG(クルド人民防衛隊)であり、そのシリア・クルド人が窮地に立たされることは、トルコのエルドアン大統領にとって、歓迎できることであろう。
エルドアン大統領はISのシリア国内における戦闘を、有利に運ぶよう側面から支援し、クルド人を窮地に立たせ、大きなダメージを与えることによって、自国内のクルド問題解決に、役立てるつもりなのであろうか。
そのことを正確に把握しているから、PKK(クルド労働党)アブドッラー・オジャラン議長は『トルコ政府がシリアのクルドを守らなければ、和平交渉は止める。』と語ったのであろう。
トルコ政府は一方においてISを擁護し、クルドの撲滅に利用し、他方においてはFSA(反体制派シリア自由軍)を使って、見せ掛けのIS との戦いをさせ、実際にはシリア軍と戦わせようとしているが、その戦闘へのトルコの支援は、飛行禁止区域の設定ということになる。そうすることによって、アサド体制を弱体化させるつもりなのであろう。ある分析者はこれを『一石二鳥』と評した。つまりアサド体制の打倒と、ISと戦うクルドを弱体化させることだ。