8月28日に発足したトルコのエルドアン新体制は、これまでの方針を大きく変更せざるを得なくなったようだ。アメリカや欧州がウクライナ問題を理由に打ち出した、ロシアに対する経済制裁では、ロシアが欧州からの農産品輸入を禁止したことで、トルコは大きな市場を獲得し、経済的に希望が持てた。
イラクやシリアで殺戮を重ねるISについても、仇敵であるイラクのマリキー首相を辞任に追いやり、シリアのアサド体制も打倒されるであろうという、希望をエルドアン大統領は、抱いていたであろう。
しかし、ヨーロッパで開催されたNATO サミットでは、こうしたエルドアン大統領の希望的観測は、反故にされてしまったようだ。まず、ロシアに対する制裁では、トルコは漁夫の利を得られなくなり、NATO諸国に足並みをそろえ、農産品のロシア向け輸出を、止めざるを得なくなりそうだ。
加えて、アサド体制打倒の道具に使おうと思っていた、トルコのISに対する支援も、アメリカの強い希望でISに対し、敵対せざるをえなくなりそうだ。アメリカやヨーロッパ諸国は、ISの拡大と自国への浸透を懸念しているからだ。
ロシアに対する農産品の輸出取りやめは、ある意味では二面性があろう。ロシアに対する輸出が拡大していけば、トルコ国内は品薄となり、どうしても値上がりしてしまおう。
そうでなくともインフレが進むトルコでは、それに拍車がかかり、結果的には国民の不満がエルドアン体制非難に繋がろう。したがって、輸出代金は入ってこなくとも、国民のインフレに対する不満軽減には、役立つかもしれない。
同じようにISに対する対応変化も、トルコにとっては、二面性のあるものとなろう。エルドアン大統領はアサド体制潰しが目的で、IS支援をしていたが、ISは次第にトルコに対しても、牙をむき始めている。
しかも、アメリカ軍のシリアへの介入で、シリアからISが追い出されるような状況になれば、ISの逃亡先はトルコということになり、トルコ国内は混乱することになろう。
エルドアン大統領にとっては、ロシア向け農産品の輸出停止も、ISに対するてこ入れの取りやめも、決して愉快なことではあるまいが、結果的にはその方が、賢い選択となるかもしれない。
こうした妥協で面子を失ったエルドアン大統領は、仇敵であるギュレン氏のアメリカカからの追放を、強く求めたようだ。しかし、アメリカがエルドアン大統領の要望に応えることはあるまい。アメリカは民主国家なのだから。