イラクでの蛮行で世界を震撼させたIS(ISIL) は、その後、拠点をイラクからシリアに移しているようだ。それは、アメリカがイラクの戦場に乗り出してきたことに加え、当初の目的であったろう、イラクのマリキー首相を追放できたからだ。
シリアの場合北部はいま、完全にISの牛耳るところとなっているようだが、それはシリアでは内戦が長期化していたことによる、国内分裂で浸透しやすかったからであろう。
加えて、シリアの石油資源の支配に成功し、ISは独自の財源を有するようになっている。石油以外にも銀行を襲撃したり、博物館から陳列物を奪い売却するという、闇ビジネスも行っているようだ。
ISの得意な分野はこうした経済的側面だけではない。宣伝分野でも能力を発揮している。イラク軍やシリア軍あるいはシーア派民間人などの、大量殺戮光景をツイッターやインターネットで、世界中にばらまき、脅威を煽っている。
このため、ISと対峙するシリアやイラクの軍人は、戦う前から腰が引けていたし、民間人は国外に逃避するか、ISの支持側に回ってもいた。多くのシーア派教徒やクリスチャンが、シリアやイラクから逃亡し、そのことが周辺諸国に大きな負担になっているし、新たな問題を難民と受け入れ国側国民の間に、生み出してもいる。
ISは宣伝に長けており、世界中から義勇兵をリクルートしているようだ。いまではイスラム教徒や、中東の住民だけではなく、欧米、カナダ、オーストラリアからも、義勇兵が集まっていると言われている。
ISのもう一つの特徴は、彼等の情報収集能力の高さではないかと思われる。例えば、最近ISによって殺害されたアメリカのジャーナリスト二人は、いずれもイスラエルと二重国籍の、ユダヤ人であったということだ。
この二人のジャーナリストの殺害は、犠牲者がユダヤ人であったことで、イスラム世界では、大幅にその残虐行為に対する非難の度合いが、緩んだものと思われる。
こうして検討してみると、これから先ISは限りなく拡大していくように思われるのだが、そうではなかろう。ISの戦闘員は世界中から集められた集団であり、宗教的情熱、金目的、残虐行為とそれぞれの目的がばらばらだからだ。ISの資金源は国際協力で、阻止で来るのではないか。
アメリカ軍の介入でISが、イラクからほぼ引き揚げたように、シリアでもアメリカ軍が動き出せば、ISの動きは弱まろう。問題は、新たに設定されるISの行動地域だ。
シリア、イラクの周辺諸国はもちろんのこと、イスラムがらみの問題を抱える国は、その新たなターゲットとなろう。すでに、タタール・トルコ人を抱えるウクライナや、カシミール問題を口実にインドが、アルカーイダやISの攻撃範囲に含まれたようだ。同時に、湾岸のアラブ諸国も油断はできまい。その傾向が、既にサウジアラビアとアラブ首長国連邦では出ているのだ。