『ガザ戦争とユダヤ人の収支決算』

2014年8月16日

 

 ヨーロッパに居住するユダヤ人の間で、今回のガザ戦争を挟み、いろいろな意見が出てきている。誰もが感じているように、今回のガザ戦争は簡単に言って、イスラエルがやり過ぎたのであろう。イスラエル軍が膨大な爆弾を、ガザに投下することによって、多数のビルが破壊されただけではなく、多くのパレスチナ人が死傷したからだ。

 このため、ヨーロッパ諸国ではイスラエルに対する、非難の声が拡大し、加えて、ヨーロッパに居住するユダヤ人に対し『お前たちはイスラエルを優先するのか、それともいま居住し、帰属している国を優先するのか。』という問いかけを始めている。

 そればかりではない『お前たちはヨーロッパの価値観で生きているのか、それともイスラエルの価値観で生きているのか。』とも問いかけられている。つまり、ヨーロッパ社会にあって、ユダヤ人は異端だと考えるヨーロッパ人が、増えてきているということだ。

 ヨーロッパ社会はこのところ、次第に右傾化し、民族主義的傾向が、強くなってきており、選挙でもそれが顕著に顕れ出している。そのことは、今回のガザ戦争で、イスラエル・ユダヤ人が見せた、独善的な正義感に対する、強い反発を生み出してしまったようだ。

 こうしたことから、ヨーロッパなかでもフランスに居住するユダヤ人は、将来への不安を強めているようだ。彼らの多くがイスラエルに移住することを、強く望むようになっているのだ。

 フランスがユダヤ人にとって、安住の地ではなくなってきているのは、北アフリカなどからの、イスラム教徒の移民が大幅に増加していることも、原因の一つであろう。このところ、ユダヤ教の協会シナゴーグや、ユダヤ関連施設に対するテロが、頻発するようになってきているのだ。

 それはフランスばかりではなく、程度の差はあるものの、ヨーロッパ全体に言えることのようだ。このため、ヨーロッパのユダヤ団体の幹部の間から『ヨーロッパは既にユダヤ人にとって、楽園ではなくなった。』『ヨーロッパでホロコーストが再度起ころう。』という悲観的な考えが、広がり始めている。

 ヨーロッパで広がる反セム(反ユダヤ)の動きを警戒し、自分がユダヤ人であることを隠したり、ユダヤ・コミュニティとの関係を、絶つ者も出てきている。しかし、そんなことをしても、反セムの波が大きくなっていけば、ユダヤ人は洗い出され、被害を受けることになろう。それはホロコーストの悲劇を生んだ、ドイツでの経験から分かりそうなものだ。

 ヨーロッパの政治家やインテリの、45パーセント以上の人たちは、ヨーロッパに居住するユダヤ人のアイデンテティは、自分の帰属する国ではなく、イスラエルにあるとみなしているということだ。

 回を重ねる毎に、右翼や民族主義的な政治家の、当選者数が増えるヨーロッパ社会は、ユダヤ人にとって本当に危険に、なってきているのであろう。であるがゆえに、イスラエルは彼らを受け入れるスペースの確保に(ガザ地区やヨルダン川西岸地区の占領拡大と固定化)、躍起にならざるを得ないのだが、そのことは同時に、ヨーロッパに居住するユダヤ人を、追い込んでしまう両刃の剣でもあるのだ。