イラクのマリキー首相が長期間に渡って、イラク首相の座に留まれたのは、イランの後押しがあったことと、それを土台にしたイラク・シーア派の支持があってのことだったろう。もちろん、彼をイラク・シーア派最高権威者である、シスターニ師も支持していた。
しかし、イラクは混沌状態から抜けないままに、長い時間が経過した、そのことに加えて、IS(ISIL)のイラク国内における台頭は、イラク国民の多くに国内各派の連帯強化と、政治の変革の必要性を、感じさせたのであろう。
イラク国内に首相を交代させるべきだ、という考えが広がり、7月24日にはイラク議会が、クルド人ベテラン政治家ファウード・マスウーミ氏を、大統領に選出した。それに先立ち、スンニー派の政治家サリーム・ジャブーリ氏を、国会議長に選出している。
なお、イラクの憲法では大統領職にはクルド人、首相職にはシーア派イラク人、そして国会議長にはスンニー派イラク人の中から、選出されることになっている。
続いて8月11日、ファウード・マスウーミ大統領はシーア派の国会副議長であった、ハイダル・アルアバデイ氏を首相に任命した。ハイダル・アルアバデイ氏はこれから30日以内に、新内閣を組閣しなければならない。
マリキー首相は今回の変革に不満であり、軍を味方にして首相の座に留まろうとしているが、その試みは成功すまい。それは、既にイラン政府が正式にハイダル・アルアバデイ氏の首相就任を、歓迎しているからだ。
加えて、欧米各国、シーア派最高権威者であるシスターニ師も、イラク国内の混乱を憂慮し、マリキー首相の辞任を求めていた。こうなっては、マリキー首相が寄って立つべき、支持者がいなくなってしまおう。
マリキー首相はイラクの混乱のなかで、よく頑張ったと賞賛されてしかるべきであろう。いまのイラクでは誰が首相になっても、国内の政治状況や治安状況を、安定化させることは出来まい。
マリキー首相の後任となるハイダル・アルアバデイ氏はイギリスに居住した経験を持ち、欧米とは通訳を挟まずに話し合えるかもしれないが、そのことと政治手腕は別であろう。
下手をすれば、欧米各国によって、いいように扱われてしまうかもしれない。イラクの今後は、アメリカ軍が増派され、国内政治に強く関与してくるものと思われる。新首相がイラクの独立性を、何処まで維持できるのか見ものだ。