『モースル・ダム破壊は数百万人の死者を生む危険性がある』

2014年8月10日

 前の報告でも触れたが、いまIS(イスラム国家)が支配している、イラク北部の地域には、イラク最大のダムも含まれている。そのダムをISがイラク政府やアメリカとの交渉材料に使った場合は、想像も付かないような状況が、生まれる危険性がある。

 アメリカ政府はヤズデイやクリスチャン、そしてクルド人たちがISによって攻撃され、危険な状態になっているということから、オバマ大統領は空爆を決定し、実施し始めている。その空爆が何時まで続くのかは、いまの段階では不明なようだ。

 もし、しかるべき成果が上がらない場合には、空爆が当初の計画よりも、長期にわたる可能性もあろうし、攻撃範囲が拡大していくことも考えられる。そうなると、アメリカの空爆によって、これまで予測していないような結果が、出てくることもあろう。アメリカの親切は往々にして、象の親切(親切にしているつもりが大きな迷惑を及ぼす)になる、可能性があろう。

 アメリカの猛爆撃が続いた場合、IS側はイラク政府とアメリカを相手取って、モースル・ダムの破壊を交渉のカードに、使う危険性があろう。モースル・ダムは1980年に建設され、モースル市の北側に位置しているイラク最大のダムで、貯水量は3兆バーレルあるということだ。

 もし、このモースル・ダムが破壊されて、貯水が流れ出せば、モースル市では19メートルの波を受けることになり、街はたちまちにして、その水に飲み込まれてしまうということだ。

 同様に イラクの首都バグダッド市にも洪水がおし寄せ、バグダッド市は45メートルの波をかむることが、予測されている。述べるまでも無く、そんな洪水になれば、バグダッド市は壊滅状態になろう。

 モースル市にしろ、バグダッド市にしろ、他のイラクの都市にしろ、街は基本的には泥砂の地盤の上に、建設されているため、洪水が押し寄せれば、ひとたまりも無く崩れ落ちよう。しかも、建物の多くは鉄骨の少ない、ブロック建築であり土壁だ。

 もう一つの危険性は、モースル・ダムが常に修理保全を、必要としていることだ。ダムのコンクリート壁にひびが入るため、それを常に修理していなければ、ダムが決壊する危険性があるのだ。アメリカの空爆範囲が広がり、モースル・ダムに近づいた場合、爆弾の爆発により地盤が揺れ、ダムにも影響が出るかもしれない。

 イラクは2003年のアメリカ軍のよる侵攻以来、ダムの修理をキチンとしてきているとは思えない。そのことはISが爆破しなくとも、ダムが決壊する危険性が、高まっているということだ。ダムが破壊されれば、洪水の被害から生き残った、イラク国民の飲料水は無くなり、多数の国民が死亡する、ということも予想される。