だいぶ前に、イラクのモースルでトルコ領事館が、今年の6月にイラク・レバント・イスラム国家組織=イスラム国家に変名)に襲撃を受け、領事を含む49人が人質に取られていたことについて、これはやらせではないか、という推測をこの欄でお伝えした。
トルコ人が人質にとられたのは、大統領選挙のためのキャンペーンではないか、というのが私の推測だった。49人の人質が大統領選挙の、ぎりぎり前の段階で釈放されれば、それは涙と興奮で盛り上がるだろうというものだ。
この予測は、大分思い切ったものだったが、ここにきて信憑性が出てきている。トルコのユルマズ国防相が『明日か、あるいは明後日に人質は解放されるだろう。』と語ったのだ。
他方、トルコの外務省は何の情報も無いと、国防相の明るい見通しを否定している。その方がもし釈放された場合、効果は大きいのかもしれない。問題はそのタイミングだが、トルコの大統領選挙は8月10日だ。それ以前の6,7,8,9日のいずれかに、人質は釈放されるかも知れない。
私と同様の疑問を抱いている人は、トルコの政治家の中にもいるし、ジャーナリストの中にもいるようだ。彼等は『何故外務省と国防省が全く異なる意見を述べているのか?』と疑問を呈している。それはそうであろう。外務省に国防相の情報が、全く届いていないはずがないからだ。
そのことから野党議員の中から『実は全てはエルドアン首相が、コントロールしているのだろう。』という意見が出ている。他の野党議員は『釈放されるタイミングは、選挙の投票前ぎりぎりになるのではないか?』と語っている。
最大野党のCHPなどは『釈放は問題ではない、問題はタイミングだけだ。つまり与党AKPに最も都合のいいタイミングで、人質たちは釈放されよう。』と言い切っているのだ。
もしそれが事実となれば、AKPとエルドアン首相は、どう説明するのだろうか。人質になった人たちとその家族は、釈放された後にどのような気持ちになるのであろうか。
問題は、イラク政府がモースルのトルコ人人質がいる場所を、急襲しないかということだ。最近になってイラクでもシリアでも、ISILに対する反撃は強まっている。加えてISILが石油資源に手を出したことで緊張は高まっているのだ。
そしてイラクのシーア派の人たちは、ISILの攻勢が続けば、やがてはシーア派の総本山である、カルバラも破壊されるのではないか、という懸念を強めている。モースルで激しい戦闘が起これば、人質は犠牲になる危険性があるのだ。