『コンピューターで弱体化する人間と国家』

2014年8月 2日

 イスラエルとハマースが、真剣勝負に及んだ今回のガザ戦争で、どうやら負けたのはイスラエルのようだ。もちろん、そうは言っても、建て物の破壊や犠牲者の数で行けば、パレスチナ側がこうむった犠牲の数は、イスラエル側に比べ、10倍以上になっている。

 しかし、イスラエル側にいまの段階で、勝利の実感があるのだろうか。ガザのハマース側が発射したロケット弾は、何発もイスラエル側の、しかも深奥部まで達している。被害は大きくないが、これでイスラエル国民は、自国の何処にいても、危険だという実感を抱いたろう。

 そして、ロケット弾に加え、ハマース側はガザ地区内から、イスラエル側にまで通じる、何本もの地下トンネルを作っていた。そこを通って、パレスチナ側の戦闘員は、突然イスラエル側の居住区を、攻撃することが出来るようになっていた。

 このことも、イスラエル国民に大きな不安を、与えることとなった。突然夜中に、地下トンネルを通って敵が現れ、攻撃してくるのでは、夜もおちおち眠れない、ということになる 

 戦争を決断したイスラエルのネタニヤフ首相は、この二つの脅威を取り去らない限り、戦争に勝利したとは言えまい。ロケット弾が飛んで来なくなり、地下トンネルを通って、パレスチナの戦闘員が襲って来ないようにしなければ、戦争を終わらせることは出来まい。

 しかし、それは容易なことではあるまい。ガザ地区の全ての地域を破壊しつくしても、ロケット弾は次から次に入手可能であろう。ロケット弾やその部品を供給してくれる国は、幾つもあるのだから。

 地下トンネルについても同様で一部が発見されイスラエル軍によって破壊されても、また掘れるわけだし、現存の地下トンネル全てを、破壊しつくすことは、容易なことではあるまい。

 戦争が長引けば、世界の人々はパレスチナの惨状に同情を送り、イスラエルを非人道的な国家だと非難しよう。つまり、外交的にもイスラエルは勝利できない状態に、追い込まれてしまったのだ。

 世界で最も賢いといわれる、ユダヤ人の国イスラエルが、なぜこのような結果に至る戦争を、始めたのだろうか。その原因は、コンピューターにあるのではないか、と思えてならない。コンピューターは極めて便利なものだが、その中にはハートや感情は、組み込まれていないし、知恵も含まれていない。

 あるのは大量の知識(データ)だけなのだ。しかし、その知識を組み合わせると、もっともらしい論文(シュミレーション)が出来上がる。そして、それを読んだ人たちは、満足して行動を起こすのだ。

 最近、アメリカの世界戦略に、大きな計算違いが、目立つようになってきているが、それもコンピューターの弊害ではないのか。アメリカはその失敗をごまかすことに、苦慮しているのではないのか。

 人間が作り出す平和も幸福も、戦争も悲惨も、全ては人間の感情が生み出すものではないのか。そうだとすれば、人間の感情を抜きにした計画は、もっともらしく見えたとしても、何の意味も無かろう。そのことに、いま人間は気がつくべきであろう。