『ISILの誕生は中東諸国間に新連携生む』

2014年8月 6日

  最近ISIL(イラク・レバントイスラム国家組織=ISイスラム国家に変名】の戦闘能力に陰りが出てきたようだ。シリアやイラクで戦闘を展開し一時期はそうとう勢力範囲を拡大していた。

  しかし、IS(イスラム国家)の脅威は関係諸国にとって相当なもののようだ。例えばイラクのモースルではクルドの防衛隊であるペシュメルガとISとの間で激しい戦闘が続けられているが、その最大の拠点はイラク最大のダムをどちら側が制圧するかということのようだ。

  もしISがこのダムを制圧した場合、いつでも破壊するとイラク政府を、脅すことができよう。もしそういうことになれば、イラクの主要都市は大洪水に見舞われ、大きな被害を受けることになろう。

  そこでイラク政府は空軍を使いペシュメルガの支援に乗り出している。そもそも、イラク政府とクルド自治政府との関係は、イラク北部の油田を巡り犬猿の仲にあったのだが、当面の敵を倒すことは、双方の利益であることから、共闘体制が生まれたということだ。

  イラクについてはサウジアラビアとの関係でも、連携が見え隠れしている。これまでサウジアラビアは、イラクのシーア政権に敵意を抱いており、テロリストをイラクに送り込んでいると言われていた。しかし、今では共通の敵におびえており、イラクとサウジアラビアとの間で、争うのは後回しにしたようだ。

  同様の事が他でも起こっている。シリアとイスラエルは敵対関係にあるのだがどちらもいまイスラム原理主義組織の存在に苦慮している。そこから、暗黙の相互支援関係が成立しているのではないかと思われる。

エジプトとイスラエル、イスラエルとサウジアラビアの関係においては、より明確な形の連帯が生まれているのではないか。この場合はムスリム同胞団が、共通の的になっているということだ。

サウジアラビアもエジプトもムスリム同胞団を国家の敵とみなしており、テロ組織と認定している。イスラエルもムスリム同胞団はテロ組織であり、その傘下のハマースにいまてこずっているのだ。

こうした構造の変化を見ていると、ハマースの現在の立場は、決して良くはない、ということであろう。サウジアラビアやエジプト、シリア、イラクはハマースというムスリム同胞団系の組織を、支援しないということになろう。

ハマースを支援しているのは、イランやトルコだが、これもリップ・サービスの範囲から出ないのではないのか。ハマースとガザの住民は、今回のガザ戦争の後、各国から援助が送られ、ガザの復興ブームが起こることに、期待している。その総予算は60億ともいわれているが、誰がその資金を出すというのか。ムスリム同胞団を支持している、カタールだけが資金提供を、喜んですることになるかもしれない。