死者1000人を超え、負傷者の数は5000人を超えていると言われるガザ戦争が、一時的な停戦ムードの中にあるようだ。停戦ムードという表現を使ったのは、停戦後も規模は小さいと言いながらも、ロケット弾がガザからイスラエルに向けて飛び、イスラエルからも攻撃が行われているからだ。
このままイスラエルがハマースに対する攻撃を再開し、徹底的に撲滅する動きに出たら、その後のガザはどうなるのであろうか。それは、シリアのケースを見れば、よく分かろうというものだ。
結果的には、ヌスラやISIL(イラク・レバント・イスラム国家組織)と言われる、過激なイスラム原理主義戦闘集団が台頭し、シリアの相当部分を支配することになった。その後の状況は彼らによる虐殺が続き、シリア国民の多くが国外に逃亡している。
シリアばかりではなく、イラクでも同様にISILの活動が活発化し、イラク政府は対応に苦慮している。イラクの軍部だけでは、抑えきれなくなっているようだ。イラクの場合はそのことに加え、国内政治の権力闘争が重なり、ますます複雑な様相を呈している。
アメリカ政府の中には、いまのシリアの状況から考えて、ガザのハマース体制を撲滅するべきではない、と考える幹部が出てきているようだ。アメリカのペンタゴンのDIA(国防情報局)のトップであるミシェル・フィン准将は、『ハマースを撲滅すればその後に、もっと悪い組織が出てくるだろう。ハマースを撲滅することは、問題の解決にはつながらない。』という趣旨の発言を、コロラドの防衛会議の席で語っている。
事実そうであろう。ハマースを潰せば、その後にはシリアのヌスラ組織や、ISIL組織のような過激な集団が、その後を継ぐことになろう。そうなれば、イスラエルに交渉の余地は、全く残されなくなり、血で血を洗う戦闘の継続、ということになりはしないか。
ハマース側はイスラエルに対し、交渉相手として認めて欲しいということと、ガザに対する封鎖を解除して欲しい、というのが当面の要求だ。イスラエル側がそれさえ認めれば、緊張は一気に緩和されるということであろう。もちろん、ハマース側はこの条件を、当座の条件としており、イスラエルが妥協したからと言って、平和な関係が永続するとは考えていまい。
今回のDIAトップの発言が、アメリカ政府の立場であることに期待したい。アメリカが打倒したアラブ各国では、その後、混乱だけが続いているのだから。計画通りに事が進展するほど、現実は容易ではないということであろう。