近隣諸国との友好関係を大前提として発足した、トルコのAKP(発展公正党)の党是は、現在に至って、全くその逆の方向に、向かっているようだ。その最大の原因は、短期的観点に立ち、国益を最優先したことに、依るのではないか。そして、国民の前の一時的な人気取り政策も、災いしているようだ。
マ-ビ・マルマラ号事件(ガザへの支援船)に対する、イスラエル特殊部隊の急襲による、9人のトルコ人死亡事件以来、それまで強固な関係にあった、イスラエルとの関係を、エルドアン首相は簡単に、反故にしてしまった。その対極としての、シリアとの関係改善があったが、これは後にシリア問題への介入で、最悪の状態になっている。
エジプトとの関係も、モルシー大統領に対する軍の蜂起以来、最悪の状態にあり、重ねてトルコはシーシ大統領が、リビアに介入していると非難し始め、ますます関係は悪化している。
湾岸諸国との関係は、イランのガス供給を大前提とする、トルコのイラン接近が目立ったことから悪化している。加えてエジプトのムスリム同胞団支持が、サウジアラビア、クウエイト、アラブ首長国連邦を、激怒させることとなった。
イラクとの関係でも、クルド自治区の石油ガスを入手するために、イラク政府との関係を、悪化させてしまった。既に出来上がったクルド自治区とトルコのジェイハーン港を繋ぐ、パイプ・ラインを通じて、イラク政府との合意のないまま、クルド地区からヨーロッパに向けて、石油が積み出されているのだ。
今では周辺諸国との善隣関係は夢と消え、敵対的とまで言えるほど、トルコの周辺諸国との関係は、悪化してしまっている。
トルコにとって、イラクで最近起こった出来事は、外交の失敗と、短観的なエルドアン首相の対応の、失敗の典型であろう。イラクのモ-スル市にあるトルコ領事館が、ISILによって襲撃され、何十人ものトルコ人が人質に取られ、問題はいまだに解決していない。
その人質の中には、領事のオズ・トルク氏も含まれているのだ。皮肉なことにトルコ領事館にいたイラク人は、誰も人質に取られなかったが、トルコの軍人は人質に含まれていた。
こうした出来事は、トルコが国際社会で孤立し、いかに情報が取れない状態になっているかを、示す典型的な例だ、と指摘する専門家もいる。そしてエルドアン首相の短期的対応が原因であり、彼の中長期的展望に立たない、狭い考えの結果だ、とも指摘されている。
こうした状態からトルコが抜け出すためには、エルドアン首相の言動を変える必要があろう。それなしには、欧米の協力は得られまいし。周辺諸国との良好な、関係再構築にも向かえまい。