5月11日、シリアでは次期大統領選挙に向けた、選挙キャンペーンが始まった。大統領選挙の投票日は、6月3日に予定されている。在外シリア人の投票はこれに先駆けて、5月28日から始まる予定になっている。
大統領選挙にはアサド大統領を含め、3人が立候補しているが、どう考えてもアサド大統領の当選は間違いなかろう。立候補者は国会議員のマーヘル・アブドルハーフェズ・ハチジャーリ氏とハサン・アブドッラー・ヌーリ氏そしてアサド大統領だ。
この選挙の結果、アサド大統領が再選された場合、西側諸国はどう対応するのかが問題だ。もし、これまでと同じように、アサド体制に対して、敵対的な対応をするのであれば、シリアの内戦は続くことは明らかだ。
その結果、新たに多くの難民と死傷者が、出るということだ。もし、アサド大統領が再選され、西側諸国が選挙結果に対して、一定の理解を示せば、シリア国内は安定化に、向かうものと思われる。アメリカのシリア対応は腰が引けてきていることと、サウジアラビアが嫌気をさしてきていること、カタールの対応に変化が生まれ始めている事から、明るい期待が少しは持てそうだ。
その逆の結果となった場合はどうであろうか。例えば、テロが頻発して選挙が流れた場合、シリア国民は国内政治の変化のタイミングを失うことになり、状況は混沌としよう。
また、ありえないとは思うが、アサド体制が崩壊した場合、シリアはリーダー・シップを取れる人物がいなくなり、混乱の度を増すことになろう。在外の反シリア政治家たちは、いずれも重い責任を負える輩ではないのだ。
反政府の政治家たちが、能力不足だとすると、俄然勢いを増すのは、イスラム原理主義者たちであろう。彼らがシリア内政(?)のイニシャチブを、握るようなことになれば、シリアはイスラム原理主義の巣窟になろう。
そうなった場合。シリアを拠点とし、イスラム原理主義者たちが周辺諸国に対しても、攻勢をかけることは必定であり、中東地域各国は不安定になり、危険度が上がるということだ。
総じてアラブ各国の国民は、自国政府に対し不満を抱いており、イスラム原理主義活動に加わろうとする者が少なくない。彼らはシリアに集まり、そこで戦闘技術や宣伝ノウハウを学び、自国政府に攻勢をかけていくことになろう。
その場合、シリアのイスラム原理主義者たちを支援してきた、サウジアラビアやカタール、そしてトルコはその最初の、ターゲットになるのではないか。
もちろん、そのことはシリアがパレスチナ、イスラエルに隣接していることから、パレスチナのハマースが勢いを増し、アッバース議長率いるパレスチナ自治政府は、影響力を弱めよう。
加えて、イスラエルはゴラン高原からのゲリラ戦に、巻き込まれるのではないか。そうなれば、2006年に起こったレバノンのヘズブラとの戦争のように、イスラエル軍は苦戦を強いられるのではないか。
つまり、シリアのアサド体制を打倒することは、シリアが混乱するばかりではなく、アメリカの友好国であるサウジアラビアやカタール、トルコやイスラエル、そしてアメリカ子飼いのマハムード・アッバース体制が危険になるということなのだ。