パレスチナのライバル組織ファタハとハマースが、連帯を強化し、統一してイスラエルに対抗する事に合意した。一見、パレスチナ問題が前進するように思えるのだが、必ずしもそうではあるまい。
これまでファタハ・パレスチナ自治政府を、非難し続けてきたハマースが、ここに来てファタハとの合意に動いたのは、あくまでも資金難に陥ったからに、他ならないからだ。
ハマースが率いるガザ政府は、ムスリム同胞団の結成した組織であることから、モルシー政権の崩壊後、エジプトとの関係が悪化していた。ガザからエジプトに抜けるラファのゲートは閉鎖され、時折人道的な理由から、開かれるに過ぎなかったし、ハマースが認めていたエジプトからの密輸トンネルは、ほとんどがエジプト軍によって、破壊されていた。
このため、ハマース政府が密輸に課する、税金は徴収出来ず、資金難に陥っていたのだ。困ったハマースは、ファタハに声をかけることにより、何とかこの資金的窮地から抜け出したい、ということであったのだろう。
他方、ファタハ側はイスラエルとの和平交渉が遅々として進まず、アメリカの圧力もあり、妥協を重ねなければならない状況に、追い込まれていた。この段階で、ファタハがハマースとの関係を修復すれば、当然の帰結としてイスラエルは、ファタハとの和平交渉を中止することになるし、事実、イスラエル政府はパレスチナ自治政府との、和平交渉を中止すると言い出している。
イスラエル政府パレスチナ自治政府双方は、相手側に和平交渉中止の責任があるとしているが、それはお互いさまであろう。ケリー国務長官は決してイスラエルの利益だけを考えて、交渉の仲介をしているわけではなく、イスラエルに対しても、厳しい注文を突きつけているからだ。
例えば、西岸への入植地については、厳しくイスラエル政府にクレームをつけている。パレスチナ自治政府に対しても、難民の帰還権を放棄させようとしている。
イスラエル・パレスチナ双方の間では、当分非難合戦が続くだろうが、それはあまり重要な問題ではあるまい。今回のハマースとファタハとの連帯強化に対し、アラブ援助国はどのような反応を示すのだろうか、ということの方が重要であろう。
湾岸諸国のなかでは、サウジアラビア、クウエイト、アラブ首長国連邦が極めて厳しい対応を、ムスリム同胞団に対して採っているいま、そのムスリム同胞団のハマースと、パレスチナ自治政府が連帯したとなると、援助は控えられるように、なるのではないのか。
エジプト政府も然りであろう。ガザをシェルターとして、シナイ半島のエジプト軍に攻撃を繰り返している、ムスリム同胞団の諸派による攻撃は、いまだに続いているのだ。
今回のハマース・ファタハ連帯合意は、アラブ諸国のパレスチナ問題への支援を、控えさせる方に作用するかもしれない。アラブ諸国はパレスチナ問題に、もう飽き飽きしているというのが現実であり、パレスチナ自治政府の汚職構造には、うんざりしているし、自国の国内問題も放置できない状況にあるからだ。