イラクの主要産油地帯となっている、イラク北部のクルド地帯は、アメリカが同国に関与して以来、一種の自治共和国の形になっている。そこを統治しているのが、ムスタファ・バルザーニ大統領だ。
彼は最近、イラクの現状と今後に付いて、極めて重要と思われる、発言をしている。彼のファミリーは父の時代から、イラク共和国政府に対し抵抗を続け、遂には実質的共和国的な権限を、獲得するに至っただけのことがあり、彼のイラクの現状に対する分析は、イラクに対して関心を持っている者にとって、極めて貴重と思われる。
ムスタハ・バルザーニ氏の発言内容は、およそ次のようなものだが、イラクの現状について、悲観的な考えを持っており、イラクの政治の失敗がますます同国を、分裂状態に導いていくだろう、と語っている。
イラクの西側地域は分裂状態にあり、不安定でテロが頻発している。そうした状況から、既に政府がコントロール出来なくなっている、幾つもの都市が存在している。これらの都市では、テロリストたちが公に支配していることを宣言し、自由に活動している。
それらの諸都市では民主主義の思想や、他者を受け入れるという発想は、無くなっている。そこでは全体主義の思想が、支配しているのだ。そこでは人権は認められず、憲法も機能していない。
スンニー派とシーア派の対立は、古くて新しい対立であり、現在なお存在している。バアクーバ、デヤーリ、バハルスなど幾つもの都市で、スンニー派とシーア派の殺し合いが起こっている。そこで起こっていることは、完全なまでの、敵方の殲滅戦なのだ。
シリアもイラクに似通った状況にある。シリアが元通りになることは、ありえまい。過去のような統一国家としての、シリアに戻ることは無い。シリアのクルドに対し、イラクの我がクルド政府は、支援を送っていない。
我が政府はシリアのクルドたちに対し、内戦には参加するべきではない、と説得してきている。そもそもの原因は、第一次世界大戦の後、自然な形での民族別にする地域国家の、分割が行われたが、それがうまく機能していないということであろう。
我がクルド政府は、アメリカの仲介による、問題の解決を望んでいるが、マリキー首相がどう地域間のバランスをとり、問題の処理をするつもりなのか、いまだに不明だ。
マリキー首相が問題の処理に失敗すれば、ハラブジャ事件(サダム政権時に起こった化学兵器使用による、クルド人大虐殺事件)よりも悲惨な状況となろう。そうなれば、目には目を歯には歯をという、血の報復戦が続くことになろう。
今月末に予定されている国会議員選挙では、選挙そのものが実施されることを望み、その後に正当な政治が展開されることを望む。しかし、マリキー首相が辞任しただけでは、現状は変わらないだろう。全ての関係者の入れ替えが、必要だということだが、それは無理だろう。
ムスタファ・バルザーニ氏の現状と、今後に対する見通しは、極めて厳しいという、一語に尽きそうだ。そのことは、イラクでは今後も混沌とした状態が、続いていくということであろう。彼はアメリカと強い関係にある人物であるだけに、彼の意見はアメリカのイラクに対する、対応を含むものであろうことから、傾聴に値する。