トルコの戦闘機がシリアの戦闘機を撃墜、というニュースが流れた。トルコ側はトルコの領空内に侵入したので、撃墜したと言うが、シリア側はシリアの領空内だった、と主張している。
トルコとシリアとの関係は、準戦闘状態と言って、差し支えなかろう。トルコはシリアの反体制派に対し、全面的に支援を送っているからだ。ジハーデストの通過を認め、化学兵器の通過を認め、資金が流れ、武器もトルコ経由で、シリアの反政府側に入っているのだから、トルコとシリアは明確に、敵国同士であろう。
そうだとすれば、領空侵犯が起こった場合、敵国の戦闘機を撃墜するのは、当然のことかもしれない。これまでにも、トルコはシリア軍のヘリコプターを撃墜しているし、戦闘機も撃墜している。シリアもトルコ軍の戦闘機を、撃墜しているのだ。従って、トルコ側がシリア軍の戦闘機を撃墜しても、何の不思議もあるまい。
だが、問題は撃墜の時期にある。トルコでは今月3月30日には、地方選挙が実施されることになっているのだ。戦時色が強くなれば、愛国的な言辞をはく者が有利になろう。
そこで出てきたのが、トルコの飛び地領土にある、スレイマン・シャー大帝の墓が、シリア側によって破壊される、というニュースだった。この場所はトルコとシリアとの間で一定の合意があり、シリア領内ではあるが、トルコの領土ということに、なっているようだ。
スレイマン・シャー大帝はオスマン帝国の、始祖の皇帝の祖父に当たる人物であり、その人の墓だということは、トルコ人の愛国心を奮い立たせるであろう。
かつて1955年9月に起こった、ケマル・アタチュルク事件を彷彿させるではないか。この年、ギリシャ領内にあるケマル・アタチュルクの生家が、ギリシャ側によって爆破された、というニュースが流れた。 このニュースはたちまちにして、トルコ中を駆け巡り、イスタンブールではキリスト教徒やユダヤ教徒が、襲われるという事件が起こっている。
そして今回は、この撃墜のニュースとスレイマン・シャーの墓の問題が、トルコ国民をして激こうさせ、選挙ではエルドアン優位が、出てくるかもしれない。
トルコの識者たちの多くは、シリア軍機がトルコの領空を侵犯したのであるから、撃墜しても問題はないとしながらも、あまりにもタイミングを狙った撃墜事件である、感じがあることは認めている。エルドアンは選挙のために、シリア軍機を撃墜させたのか?あるいは偶然の軍事的対処でしかなかったのか。前者であるとすればまさに危険な賭けであろう 。それで火傷をするのは誰かについては、すぐに結果が出よう。