去る2月、イランの国境警備員がパキスタン側のゲリラ組織によって、捕虜に捕られた。この地域の国境地帯は国境とは言っても、あってないようなものなのであろうか。イランとパキスタンの国境地帯は陸伝いであり、特に国境を示すような境界網が、張られているわけでもあるまい。
したがって、ついうっかり相手側に越境することは、多分にあり得ることであろう。しかし、今回の場合はどうも様子が異なるようだ。イランの国境警備員はパキスタン側のジェイシュ・ル・アドル(公平な兵士とでも訳すべきか)という名の武装ゲリラによって、しかるべき目的があって捕まったようだ。
パキスタン政府側はイラン政府の早急な釈放要請に対し、いまだに応えていない。ジェイシュ・ル・アドルはあくまでも政府とは関係ない、私的組織だと言いたいのであろうか。
そうは言っても、何時までもパキスタン政府がこの人質事件を、放置するわけにもいかない。イラン側の要請が要求に変わり、強硬に抗議されることになると、次の段階では武力衝突もあり得るからだ。
パキスタン政府はこうした事情から、ついに重い腰を上げジェイシュ・ル・アドルに対し、人質を釈放するよう働きかけ、11人を釈放させたようだ。しかし、この11人の中には8人のイラン人は含まれていたものの、2月に人質にされた国境警備員5人は、含まれていなかったようだ。
一体、何がこの国境地帯で起こっているのであろうか。今回釈放された11人の中には、チュニジア人3人が含まれていたということだ。彼らチュニジア人はイランとパキスタンとの国境で何をしていたのであろうか。
チュニジア人はイラン側から国境地帯に来たのか、あるいはパキスタン側から来たのか分からない。いずれにしろ、特殊な目的を持っていたのではないか、と思われる。
想像するに、パキスタン側から何処かの国が、イランの核施設を調べるために送り込んだのではないか。その逆は考え難い。イラン側がパキスタンに対して、核や軍事目的の調査をする必要はあまりなかろう。
パキスタンとインドとの関係は緊張状態にあるが、そのインドとイランとの関係は良好だ。したがって、イランとパキスタンとの関係は、必ずしも良好であるとは言えない。この裏には中国とイランとの関係が、影響を及ぼしているかもしれないが、現段階では情報が足りない。
それにしても気がかりなのは、何故パキスタン政府がイラン人の人質を釈放することを遅らせているのかということだ。