『シオンの議定書がエジプトで攻撃材料に』

2014年3月 1日

 

 エジプトではいま現政府と軍に対する、ムスリム同胞団の散発的な抵抗が続いている。基本的には政府によるムスリム同胞団に対する、資金凍結が効を奏し、大規模デモが出来なくなっているからだ。

 そうした一応の安定化のムードのなかで、最大の関心事は近く行われる予定の大統領選挙だ。いまのところ最強の立候補者は、シーシ国防大臣と見られている。彼に勝てる候補はいない、というのが一般的な予想のようだ。

 しかし、ムスリム同胞団も黙って見ているわけには行かない。ガザのハマースを使ったエジプト軍に対する攻撃や、非難を繰り返している。その非難のなかで目を引くのは、ユダヤの議定書、ユダヤの陰謀とシーシ国防大臣を結びつける、非難誹謗中傷作戦だ。

 ムスリム同胞団はシーシ国防大臣の母親が、モロッコで生まれたユダヤ人であり、彼女はエジプトの国籍を1958年に取得し、シーシ国防大臣はエジプト人の子供として誕生した。したがって、シーシ国防大臣もモロッコのユダヤ人の血を、引いているというものだ。

 ムスリム同胞団はそのことを根拠に、シーシ国防大臣の起こしたクーデターは、ユダヤの議定書に書かれてあることを、実行したものだというのだ。そして、エジプトで起こった昨年73日の軍の蜂起(クーデター)は、シオニストに対する贈り物だったというのだ。

 他方、現政府と軍側も負けてはいない。ムスリム同胞団についてユダヤとの関係が深いことを取り上げ非難している。現体制と軍側は『ムスリム同胞団の創始者であるハサン・バンナー氏はユダヤ人だった。』と主張している。

 エジプトのワフド党の機関紙アル・ワフドは、マグデイ・サラーマ氏の記事を掲載しているが、そのなかで彼は『ムスリム同胞団はシオニスト賢者の思想を踏襲している。』と書いている。そして『シオニストは全ての国の政府を破壊し、政治的宗教的過激派を生み出すことを考えている。』というのだ。

 エジプトの有力週刊誌ローズ・ル・ユーセフも『ハサン・バンナーはモロッコ・ユダヤだ。彼はフリーメーソンによって、エジプトに植え付けられた(癌細胞)のだ。』と書いている。

 ここに来て、現体制側も、ムスリム同胞団側も、相手の非難材料にユダヤの議定書、ユダヤ・オリジン説を引き合いに出しているのが、何処か滑稽な気がする。長い歴史のなかでアラブのなかには、ユダヤ人との混血が相当いるものと思われる。

それはユダヤ人の生き残りのためであり、彼らが弱者だったからだ。両者の主張の真贋は決めかねる。そういえばカダフィ大佐についてもサウド王家についても、ユダヤ説が出ていた。カダフィ大佐については、母方の叔母がユダヤ人で、イスラエルに住んでいる、サウド家については、バグダッド出身のユダヤ人一族、というものだったように記憶するが。